2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2010年9月2日

 「外国資本が日本の森林を買い占めている」─。昨今、こうした話がマスコミを賑わせている。果たしてそうした事実はあるのか。現状を追った。

 「2006年3月、大泊町の森林の50ヘクタールを買いたいという中国人が実際にやってきました」。

 三重県熊野市森林組合参事の奥西正守氏はこう話す。結局売買は成立しなかったものの、こうした事例は三重だけに限らない。首都圏のある地域では今年に入り、4件もの中国人による買い占め行為が確認されている。ある林業関係者はその時の状況をこう語る。

 「突然中国人がやってきて、『現金があるから』といって10万坪を超える山林を買い占めようとしたり、何十万本もの数字を提示して『中国で売りたいから木を買いたい』、『ペットボトルに水を採取して中国で売りたい』などと言うのです」。

 スーツに身を纏った中国人が、アタッシェケースに多額の現金を詰め込み、通常1坪約1万円のところ、10万円近くの額を提示してきたケースもあるという。高値に目が眩む地主もいそうだが、周囲の人間の反対で売買は成立していない。

 こうした中国人による買い占め行為に林野庁も実態把握に動いている。同庁森林計画課は08年6月より、都道府県にヒアリングを開始、今年4月には、引き続き情報収集に努めるよう都道府県に通知を出している。8月3日現在、外国資本が森林を買収したとの事例は1件も確認されていない。

 だが、前出の関係者はこう指摘する。

 「実際に売買が成立しているケースもあるはずです。その証拠にこの地域で林業を生業にしている人はそれほどの収入は見込めず、貯金を切り崩して生活しているはずなのに、ある日突然車が外車になったり、家をリフォームするなどの変化が見られます。また、日本人が社長のダミー会社を噛ませていたら、実態を摑むことは不可能です。林野庁がいくら情報収集に努めたところで、地元の人は『中国人が買いに来たことを役所に報告したことが漏れれば、中国人からの報復や嫌がらせがあるかもしれないから怖い』と言っていますから、実態把握は困難でしょう」。

未だに決まらぬ森林の境界

 仮に外国資本に森林が買収されても、適切に管理されるのであれば、森林管理を放棄している日本人の土地所有者よりもまだマシなのかもしれない。だが、日本は明治時代の地租改正により、土地所有者に強い権限が与えられたため、たとえば、間伐などの山林の整備・保全や林道整備をしようにも、所有者の了解を得なければできないとの問題がある。それゆえ、外国資本に買収されると、例えば土地を集約化しようとした際に拒否されるケースも考えられ、日本の林業再生に向けてネックになる可能性も否定できない。無論、こうした日本人の土地所有者が大勢いることでも同様の問題は発生することになるのは論を俟たない。

 加えて、土地に関する記録として利用されている地図は、約半分が地租改正時に作図されたポンチ絵程度の「公図」をもとにしており、公図が現実と合っていないこともしばしば。

⇒次ページ 「地籍調査」が進まないワケ


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