2024年11月26日(火)

Wedge REPORT

2010年9月21日

 イノベーションをモデルに反映してほしいという環境省側の要望を反映したため、と好意的に理解したとしても、少なくともその数値の根拠は示されなければならないだろう。ほかにもCO21トンあたり5万円を超す限界削減費用(排出権の取引価格と理解してよい)がかかっているのに、電気料金は10%程度しか上がっていない(タスクフォースのモデルでは、同程度の限界削減費用で電力料金が約2倍)など、多くの疑問が専門家から出されているが、伴教授はいまだ明確な回答をしていない。

 国会論戦は荒れに荒れ、5月14日、衆議院環境委員会は強行採決に至った。わずか18時間の質疑だった。

 苦しい立場に追い込まれた政権の拠り所は常にマニフェスト、となる。

 「マニフェストに掲げて我々は選挙を戦ったわけであります。これほど大きな国民に対する問題提起はなかった」(3月23日衆議院環境委員会、小沢環境相の答弁)

 国会答弁では、マニフェストは国民各界の意見を聞き、丁寧な検討を踏まえて作成されたとされた。しかし、ある民主党議員はこう言う。「09年衆院選マニフェストは、広い党内議論を経ていない。ごく少数で決められた。だから予算の組み換えも、公務員人件費2割削減も現実性がない。温暖化対策の25%削減目標も同様だ」。金科玉条にしてみたり、鶴の一声で修正してみたり……都合のよいマニフェストである。

 基本法案は突然の鳩山退陣でたまたま廃案となったが、環境省は、秋の臨時国会に再提出を行う方針だ。情勢はねじれ国会。ここで、ある一つの恐怖のシナリオが描かれる。

恐怖のシナリオ
高い目標は日本だけ

 それは、基本法案が、野党との連立の「材料」に使われることである。前提条件なしの25%削減を掲げる公明党やみんなの党と組むために、民主党政権が基本法案から前提条件を削除すればどうなるか。日本は国際交渉で完全に追い込まれる。

 現在、年末のメキシコ・カンクンで開催されるCOP16に向け、京都議定書の約束期間後の13年からの枠組み交渉が続けられている。COP15の失敗と、世界的な景気悪化を受け、各国、温暖化対策への取り組み姿勢は急速にしぼんでいる。特に米国は、気候変動法案からそれまで05年比17%削減としていた中期目標を削除した。オバマ政権に極めて近いWRI(World Resources Institute)は、「頑張っても、05年比で5%~12%しか削減できない」という報告書を堂々と公表している。中国は言うまでもなく、厳しい削減はやる気がない。いま、急速に高まっているのが、京都議定書延長論だ。

 米中印といった主要排出国が入っていない京都議定書が延長されれば、世界全体の温暖化対策は実効性を失う。まだ削減余地がある欧州は、自らの排出権取引市場(EU−ETS)の買い手となる日本を手ぐすね引いて待っている。日本が前提なしの25%削減を国内法として成立させれば、京都議定書延長論を拒む理由が立たない。延長論を飲み込めば、国内製造業だけが、極めて不利な競争環境に置かれ、空洞化がいっそう進むことになる。国際交捗がまとまるまで、基本法の提出は見送るべきだ。

 民主党の政治主導の実態はかように脆弱だ。自民党政権では、事前の党政調、審議会における議論で、政府の進める政策の中身が、相当程度明るみになっていた。官僚主導の過去を賛美はしないが、政治主導が一部の政治家の専制に陥る危険性をはらんでいるのは事実だ。右肩上がりが終わった現代において、国民の利害が一致する政策は少ない。利害対立を乗り越えるために政治主導が必要であることは否定しないが、その分政治家には、高い見識と丁寧でオープンな政策立案プロセスが求められる。特に、10年後の社会を規定する温暖化対策のようなテーマはやり直しがきかない。政治主導を国民が監視し、透明性と公正さを担保する何らかの仕組みが必要である。

 

 

 

 

 

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