家庭・産業と電気料金
電気料金の上昇は生活と産業にどのような影響を与えたのだろうか。失われた20年間と言われるデフレの時代に、私たちの平均給与は下落している。平均給与が最も高かったのは、20年前の1997年。467万円だった。ここ5年間は上昇を続けているが、2016年でも421万6000円しかない。デフレといっても、生活は苦しくなっている。2015年には、国民の27.4%が「生活が大変苦しい」、32.9%が「生活がやや苦しい」と答えている。
1994年に平均664万円あった世帯所得は、2015年には546万円に下落した。高齢者世帯の増加が平均所得を押し下げている面はあるが、児童のいる世帯の所得も1998年の782万円から708万円に下落している。所得が減少すれば、支出を切り詰めるしかない。図-4が世帯支出額推移を示している。交際費、パック旅行費など軒並み減少するなかで、電気料金支出が2011年以降増加している。収入が減少する中での料金上昇の影響は大きい。
日本の製造業は1980年代も大きな成長を続け、1990年代半ばには当時の世界一の製造業大国米国製造業の付加価値額の85%にまで迫り、米国を脅かした。しかし、その後失われた20年間に突入し、日本の製造業の停滞が続く。2008年のリーマンショックにより2009年には日本の製造業の付加価値額は大きく落ち込む。翌年から回復傾向に戻ったが、直後の2011年大震災により落ち込み、その後の回復のペースは遅い。その理由の一つは電気料金だ。
2010年比2014年には、産業用電気料金は、平均39%上昇した。金額にすると1kWh当たり13.6円から18.9円になり、製造業が支払う電気料金は合計で1兆2000億円増えた。製造業の月例給の合計は34兆円なので、3%の賃上げに相当する額だ。
エネルギーコストと出荷額の成長率を比較すると、図-5の通りエネルギーコストの負担率が高い業界の成長率が低いことが分かる。無論、成長を左右するのはエネルギーコストだけではないが、エネルギーコストの増加が成長に何らかの影響を与えているのは確かなように思える。
安全保障問題とエネルギー
エネルギー安全保障では、供給の安定性を考えることになる。原油の供給が途絶えれば、まず物流に大きな問題が生じる。電力供給が不安定になれば、生活にも産業にも影響が生じる。そのような事態を避けることがエネルギー安全保障の目的になり、達成のためエネルギー自給率を上昇させる、エネルギーを多様化する、供給国を分散することが考えられる。日本ではどんなことが可能だろうか。
エネルギー安全保障が日本で初めて意識されたのは、1973年の第一次オイルショックの時だろう。当時日本は、一次エネルギー(形を変える前の原油、石炭などのエネルギーであり、原油からのガソリン、天然ガスからの都市ガス、電気などは二次エネルギーと呼ばれる)の75.5%を原油に依存していた。中東の産油国は原油価格を約4倍に引き上げ、親イスラエルの輸入国に禁輸を行うと発表した。日本は中東諸国に副総理を派遣し、禁輸対象にならないように事態を打開した。
この後、日本を初め主要国は、エネルギーの多様化を始める。最初に注目されたのは価格競争力があり、産出国が先進国に多い石炭だった。多くの国で石油から石炭への燃料転換が行われた。一度燃料を装着すれば数年間利用可能な原子力も国産エネルギーとして考えられ、自給率向上に寄与することから米、仏、日本などで本格的な利用が開始された。その後、豪州、マレーシアなどからも供給される天然ガスの輸入も開始され、供給源の多様化が行われた。2010年には原油の比率は39.8%まで低下していた。
2011年の大震災を契機にした原発の利用停止は、石炭、石油、天然ガスの化石燃料の輸入増に結び付き安全保障面に影響を与えた。2011年の一次エネルギー消費では原油の比率は45.2%に急増した。2015年に原油比率は40.9%に落ち込むが、中東諸国が約26%の供給比率を持つLNGの一次エネルギーに占める比率が2010年の19.1%から2015年に24.3%に増えたため(図-6)、原油と合わせた中東依存率は40%に増加している。
ロシアに天然ガス、原油、石油輸入量のそれぞれ約30%を依存している欧州連合(EU)は自給率が50%近くあるにもかかわらず、ロシア依存度が高すぎるとして引き下げに注力している。日本のエネルギー自給率は1973年に9.2%だったが、その後原発の活用により2010年に19.9%となった。原発停止により2015年には7%に低下している。そんな中で、中東への依存率が上昇している。無論望ましい状況ではない。