なにやら近年、静かに存在感を増している酒が岐阜にあるらしい。その名も「百十郎(ひゃくじゅうろう)」。木曽川水系の清らかな水で仕込んだこの酒は、チーズやカルパッチョに合い、ワイングラスに注ぐとふくいくたる香りが立ち上がるのだとか。そんな酒、ちょっと聞いたことがない……
酒場歩きの達人にして作家の大竹聡さんが、岐阜県各務原市の醸造元「蔵元 林本店」を訪問。新しい日本酒の機運を作ろうとする、気鋭の酒蔵を取材してまいりました。
(記事の最後に、イベントに関する詳細なお知らせがあります)
日ごろ酒を飲むばかりで何年たっても詳しくならない私ですが、岐阜にうまい酒をつくる蔵があると伺って、この夏の終わり、訪ねてまいりました。
岐阜県各務原(かかみがはら)市にある蔵元林本店。岐阜駅から高山線に乗り、那加(なか)という小駅で下車すると、大正九年(一九二〇)創業の老舗蔵までは歩いて十分ほど。出迎えてくださったのは、五代目にあたる現当主の林里榮子さんだった。
「明日から社長を頼む」
ある日、お父様からそう言われ、蔵を引き継いでから、九年ほどになるということです。
先代まで、酒販店、ビール特約店、酒造会社という三足の草鞋を履いていた同社を酒造一本に絞り、全盛期には二千石を生産した蔵を、純米、純米吟醸などの特定名称酒を造る小さな蔵へ転換させたのも林さんです。
「よく、やってこられたね、と、知り合いからも、言われました。最初はもう、電話でアポとりをして、スーツケースに商品を詰めて行商に歩く日々でしたよ」
大学卒業後、ビール会社で営業をしていた林さんは酒造りの実際をほぼ知らなかったが、自力で学び、新たなブランド「百十郎(ひゃくじゅうろう)」を立ち上げた。それが五年前のこと。
「百十郎」という名前は、地元の歌舞伎役者、市川百十郎にちなんでいるといいます。明治から昭和にかけて活躍した役者で、市川團十郎の弟子。昭和六年から七年にかけて、各務原市の新境川(しんさかいがわ)の堤防に千二百本もの桜を植えた。今も「百十郎桜」として愛され、毎年二十万人もの人が花見に訪れる名所となっているそうです。
なるほど、だからこそ、ラベルも團十郎の隈取なのか……。
さあ、試飲タイムです!
「赤面(あかづら)」は燗にしてもいい、飲み飽きしない定番で、「黒面(くろづら)」は純米大吟醸の風格をもつ逸品。「G-mid(ジーミッド)」は甘いのにすっきりとしたジューシーな味わいでワインを思わせた。
さらに、「日和(ひより)」は晴れやかに香りたち、ギフト用の最高級品「白金(はっきん)」には思わずうなる。ワイングラスでの試飲に慣れない私だが、味わうほどに旨さが増すように感じる。
酒飲み冥利につきるとは、このことだ。
「百十郎」の名は、私の胸にしっかりと刻まれました。
(写真・阿部吉泰)
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