お酒の消費量が減る中で危機感を持った焼酎酒蔵の若手経営者。「良いモノを作れば必ず売れる」という思考から脱却して、地元のクリエイターと手をつなぎ、新たな情報発信を始めた。
焼酎といえば、鹿児島県である。ところが、焼酎ブームが去り、このところ若者のアルコール離れが進んだことで、ご当地鹿児島でも焼酎の消費量が減少傾向にある。
加えて隣県、宮崎・都城にある霧島酒造が『黒霧島』をヒットさせたことで、芋焼酎出荷額でついに宮崎県に抜かれる事態に直面した。焼酎王国鹿児島が大きく揺れているのだ。
老舗の焼酎酒蔵6代目
そんな危機を打開しようと老舗酒蔵の若い跡継ぎが立ち上がった。本格焼酎『なかむら』や『玉露』を製造する中村酒造場の中村慎弥さん、30歳。鹿児島県霧島市国分湊にある中村酒造場は1888年(明治21年)創業で、父の敏治社長が5代目。つまり慎弥さんは6代目に当たる。
「多くの人にもっと焼酎を飲んでもらうにはどうすれば良いのか。どういうシチュエーションでどんな飲み方をしてもらうか。作り手である自分たちの思いを伝える必要があると感じたのです」
作り手からすれば、どうしても「良いモノを作れば必ず売れる」と、考えがちだ。だが現実には、どんな良いモノでも、人々のライフスタイルや嗜好の変化を無視してヒットするハズはない。
「今の若者に焼酎を飲んでもらうには、まずは焼酎のあるライフスタイルから提示しなければ、実際には飲んでもらえない」
そう考えることから中村さんの活動は始まった。
地元のクリエイターとコラボ
きっかけは、世界でブレークした郷土の陶芸家の城戸雄介さんとの出会いだった。城戸さんが作る桜島の灰を加えた独特の陶器は欧米でも人気がある。
その城戸さんが、自身の器を使って鹿児島の食材を生かした食事を提供する「THE SUN TO A TABLE(食卓に太陽を)」というコンセプトの食事会を主宰しており、そこに参加したのだ。