2024年12月23日(月)

ネット炎上のかけらを拾いに

2017年11月24日

 「まじめに働けば何とかなるでしょう」という価値観の元では、何とかならなかった人はまじめに働いていなかったことにされるのではないか。そんな想像が駆け巡る。いや、よく考えると「まじめに働けば何とかなるでしょう」と、「数年後にはどうなっているか分からないから」って矛盾してないですか?

 この2つの回答の合間に、「出産の費用、医療費や保育にかかる費用など、経済的な支援があります」という説明が一行ある。この唯一有用な情報を、感情論と精神論がサンドウィッチしているシュールさ。

 先週このコーナーで取り上げた「出産クラウドファンディング」の大学生(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11144)、今思えば、高松市パンフレットのお気楽さに比べたら100倍マシだ。行政から「何とかなるっしょwww」と言われるイラつき、ハンパないっす。

若者は無知だから結婚・出産しないのか?

 序文もウザい。以下一部抜粋。

 「結婚には年齢制限がありませんが、妊娠・出産には男女ともに年齢的な限界があります。そういったことを知らずに20代30代を過ごしてしまい、子どもを持つ機会を失うことがないようにしてほしいと思い、この本では結婚から妊娠・出産・子育ての情報を取りまとめました」

 若者が早く結婚しないのは、若者の知識不足のせいである。若者は出産に年齢制限があることから目を背けている。そのように考えているらしい。

 経済状況を気にする若者から目を背けているのはどちらなのか。今の20代30代は、自分たちの親よりも、経済的に負荷がある状況で子育てをしなければいけない可能性が高い。保守的な人ほど、「親が自分にしてくれたことは自分も子どもにしてあげたい」気持ちは理解できるのではないか。そうであるなら、そうできるかわからない状況で子どもを産むことに慎重になる気持ちも理解してほしいものだ。

 ハンドブックの最後の方には、幼稚園から大学までの養育費の試算があり、「子育てには将来のための資金計画が必要です」とある。知ってる。知っている。さきほどの「なんとかなるさの思いきり」とやらは何だったのか。

 日本では学生が妊娠することはほとんど禁忌に近い状況だ。しかし、いったん卒業すればすぐに「早く結婚」「早く子どもを」と言われる。そして、結婚と出産に対する自覚を求められる。これまで散々、「無計画な妊娠・出産はいけない」という教育を行ってきたのは誰なのか。

 「何とかなるさ」。確かに何とかなる場合もあるだろう。だが、手のひら返しで「何とかなるさ」と言う前に、まず言うべきではないのか。

 「ごめんなさい。自己責任、自己責任って言い過ぎました」と。「票を持ってる高齢者だけじゃなく、若者と子どもにも予算割きます」と。

 ハンドブックでは、男性の育休についても触れられているが、男性が育休を取らないグラフだけ見せられても、彼らが育休を取れるようになるわけではない。「父親も育休を取れるよう、私たちが地域の企業に働きかけます」くらい言ってみては? とりあえず言うだけでも。言ってみたら「何とかなる」かもしれないので、ぜひ思いきって。

 4人産んだら表彰と言ったという女性議員にしてもそうだが、結局若者を「子ども扱い」しているのだ。教えてあげなきゃ結婚・出産もできないという見くびり。まず「大人になれよ」と説教から入る子ども扱いを、やめてみてはいかがだろうか。

  
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