今年、広島のキャンプで張り切っていたのが、新たにメーンの一軍打撃担当に昇格した東出輝裕コーチである。宮崎・日南、沖縄・コザでのキャンプでは、前任者の石井琢朗打撃コーチが考案した練習方法を踏襲、グラウンド全体を目一杯使って11カ所同時に行う打撃練習を連日行っている。
「練習のやり方は去年までとほぼ同じです。ぼくの仕事は、(石井)琢朗さんがいる間、もうひとつ一人前になりきれなかった選手を育て上げること。今年は野間(峻祥)、堂林(翔太)がよくなってますよ。そう琢朗さんに言っといてください」
その「琢朗さん」こと石井コーチが、今年からヤクルトに移籍したことはプロ野球ファンならご存じの通り。東出コーチの伝言を持って、沖縄・浦添のキャンプを訪ねると、当然のことながら、こちらも広島にそっくりな打撃練習をやっていた。
3つの打撃ケージが並んだ後ろでは4カ所でティー打撃が行われ、さらにファウルグラウンドでは2カ所でロングティーをしている選手がいる。合計9カ所で、広島より2カ所少ないと思ったら、球場に隣接した室内練習場で、メジャーリーグから復帰した青木宣親、主砲ウラディミール・バレンティンらが2カ所でマシンを打ち込んでいた。
ティー打撃では単調にならないよう、石井コーチが球出しのたびにあれこれ選手に話しかける。例えばジャンケンで、石井コーチが「グー」と言ったら、選手は「パー」と言わなければ打ってはいけない。「5+12は?」と聞かれたら、「17」と正解を答えてバットを振る。一見、
また、フリー打撃の最中には、石井コーチとともに広島からやってきた外野守備走塁の専門家、河田雄祐コーチが二塁ベースで走塁の練習を行っている。そういう細かいところまで、広島で行っていた練習法を導入しているのだ。
石井コーチによると、「バットを振る量は広島よりも増やしました」と言う。ヤクルトは広島と違い、ここ数年、選手たちが猛練習で追い込まれた「下地」がない。昨季チーム打率2割3分4厘、同本塁打95本、同打点449と、3部門にわたってセ・リーグ最低に終わった攻撃力を向上させるには、「もっともっと量を振り込ませなければならない」というわけだ。