2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年4月16日

 今年に入って、朝鮮半島をめぐる北東アジアの国際政治の力学が大きく動き出した。

(iStock.com/bazzier/marrishuanna/y-studio)

 昨年は、一年を通じて北朝鮮が15回にわたるミサイル発射実験と第6回目となる核実験を行った。その間、国際社会は国連安保理決議への違反をし続ける北朝鮮に対して、制裁を強化した。北朝鮮の人権問題も取り上げられた。悪い北朝鮮対国際社会という構図が出来つつあった。

 しかし、平昌オリンピックを契機に北朝鮮は平和攻勢をかけてきた。韓国の文在寅大統領が、もともと親北朝鮮だったことをよいことに、積極的に「微笑外交」を展開した。女性の芸術団や応援団を韓国に送り込み大きな国際舞台を利用して、韓国と仲の良い北朝鮮を演出した。平昌オリンピック・パラリンピック終了後の3月30日、金正恩朝鮮労働党委員長は、IOCのバッハ会長を平壌に招き、謝意を示すとともに次の東京五輪と北京冬季五輪への参加希望も伝えた。すべて、北東アジアで繰り広げられる。

 平昌五輪後の3月5日に金正恩と平壌で会った韓国大統領特使は、3月8日にワシントンでトランプ大統領に会った。トランプ大統領は、その場で米朝首脳会談に条件付きで5月までに応じることに合意した。北朝鮮問題の主導権が韓国のメッセンジャーを通して、米国にあるように見えた。

 が、3月25日から28日まで金正恩は秘密裡に北京を訪問し、習近平中国共産党総書記と会談した。その模様が公表されたのは、金正恩が帰国してからだった。

 米国の元北京及びソウル駐在の外交官で、オバマ政権のNSC中国部長を務め、現在ブルッキングス研究所に籍を置くライアン・ハスは、この米朝首脳会談に関して朝鮮半島の安全保障問題には、中国が決定的役割を果たすことを示した、と分析している。すなわち、今までは米国対北朝鮮の直接対決の様相だったのが、北朝鮮は公に中国という大きな後ろ盾を得たという構図だ。

 中国がテレビで報道した中朝首脳会談を見ると、親分ないし兄貴分の習近平総書記の言うことを、金正恩委員長が良く聞いてメモを取っている姿まで映し出された。金正恩が非核化に向けて努力すると言った旨が中国では伝えられたが、北朝鮮の報道や声明では、「非核化」という言葉は、一切出てこない。

 国内では軍事パレードを行い、強い国家を豪語する金正恩にとって、核兵器はやすやすと手放せないものなのだろう。だからかもしれないが、核やミサイル実験の「凍結」ということは言っても、日米や国際社会が求めている核兵器の「放棄」という言葉は出てこない。今後の交渉でも気を付けなければならない言い回しである。


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