2024年12月22日(日)

ヒットメーカーの舞台裏

2011年3月1日

 この機能にこだわりながら商品企画を担当したのは、QV事業部商品企画部所属の今村圭一(47歳)。1991年の入社以来、ずっと企画畑を歩み02年からデジカメを担当している。カシオは95年に世界初で液晶モニター付きの機種を発売したコンパクトデジカメの先駆メーカーでもある。

 今村はそうした伝統を受け継ぎながら、これまでも多くの新機軸を商品に具現化してきた。04年には動画撮影がワンタッチでできる「ムービーボタン」を開発している。同時に、それまではデジカメにとってオマケのような機能だった動画の高画質化にこだわり、現在では業界で普遍的になった機能を先取りした。07年以降は逆光時や夜景の撮影が事前設定なしにできる「押すだけ」機能も実用化した。

 カシオは「EX−ZR10」の開発を09年に着手した。今村はこの開発当初からアート機能に着目していた。前述の写真共有サイトで「絵画のようであったり、場合によってはホラー的なぎょっとするような写真づくりが楽しまれている」のを目にしていたからだった。

マンネリ化を打破するために
さざ波を立てる

 コンパクトデジカメの技術進歩はめざましい。値段の手ごろな普及モデルでも画素数は飛躍的に増大し、手ぶれや逆光によるミスもカメラがカバーしてくれるようになった。今村は「かつてに比べて写真を撮った人も、それを見る人も感動が薄れ、カメラへのイメージが凡庸になってきている」と、ある種の危機感を抱いていた。

 そして「お客様の心にさざ波が立つような、今までにない楽しさのあるカメラ」を模索するうちに、アート機能にぶつかった。自分でも開発初期段階には、専用のソフトを購入してパソコンで写真を合成してみた。それを1台のカメラでこなす難しさは分かっていたものの、社内では何とか商品化への了解を取り付けた。

 だが、HDRはともかくそれをアート機能に展開する画像処理技術の熟成には困難が伴い「エンジニアの人たちにはもの凄い苦労をかけた」という。カシオは画質を決定づけるレンズやセンサーといった光学部品は外部から調達している。このため「画像処理技術で光学性能を凌駕しなければ当社の存在意義はない」というのが今村の持論だ。エンジニアも今村のそこに共鳴するから、頑張れる。

 カメラを担当するまで今村は、ワープロや携帯情報端末などに従事していた。「なぜか担当してきたジャンルの商品は、次々に世の中から消えたんです」と自虐的に笑う。しかし、そこから「ニーズはとどまらず変遷を続ける」ことを体得し、「お客様の声を耳を澄ませて聴き取ることを第一にしてきた」のだった。アート機能開発のきっかけとなった「カメラが凡庸な製品になりつつある」という危機意識も、そうした姿勢があるからこそ芽生えたのだろう。(敬称略)


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