2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2011年3月23日

横山教授:平常時であれば、過去の使用電力状況に照らし合わせて予測し、ほぼその通りに電力を供給すれば問題ありません。しかし、今回は国民に節電をお願いしているため、皆さんがどのように電気を使われるかの予測が非常に立てづらい状況です。ですから、直前になって実施するかどうか二転三転してしまうのも、情報の出し方はともかくとしてある程度は致し方ないと思います。

――1つの市や地域が複数のグループにまたがるなど、グループ分けも複雑に感じられます。

横山教授:変電所から送電しているエリアが、行政の区画と一致していないためです。市や区などは複雑な形をしていますが、電気は変電所から放射線状に送られますので、それらを一致させることはなかなか困難です。

 また、1つの県だけを1グループにまとめるというのは、分かりやすい分け方に思われるかもしれませんが、一定の地域の送電を切ることになりますので、他の地域の送電線に流れる電気の量に偏りが出てしまい、不安定な状態になってしまいます。1つのグループに色々な地域を入れることで、各所で送電が切られ、全体的なバランスが取れ、電気の流れが大きく変わらずに済んでいます。

――震災の影響を受けなかった、西の地域から電力を送ってもらうことは不可能なのでしょうか。

横山教授:日本は、東と西の地域で周波数が異なっています。今回計画停電を実施している東京電力以北管内では50Hz、中部電力より西の地域では60Hzとなっているため、電気を送るには、周波数交換を行う必要があります。これができる「周波数変換所」は、現在中部電力と東京電力の境界に3ヶ所存在しており、佐久間変電所、新信濃変電所、東清水変電所でそれぞれ最高30万kW、60万kW、10万kW、合計100万kWが両周波数間で融通できる最大の電力となっています。

 今回のような万が一の事態に備えて、周波数変換所を増やすべきかどうかという議論はずっと行われてきましたが、施設の建設や送電線を引くのに5年、10年という時間と莫大なコストがかかることを考慮すると、現状では100万kWの供給で十分でした。それでも、電力系統利用協議会で2008年度に、「地域間連系線増強に係わる提言」がなされ、いずれかの変換所で30万kW増強案がこれから進められていくという状況ではありましたが、残念ながら今回の震災には間に合いませんでした。

 しかし、周波数を統一することにはデメリットもあります。ヨーロッパやアメリカのように単一の周波数を採用している地域では、大規模停電が起きやすいのです。今回の東電の計画停電が全国に広がっていないのは、西側地域が異なる周波数であるからという言い方もできます。もちろん、電力をもらえないというデメリットもあるので、一概にどちらが良いとは言い難いのですが、個人的には一蓮托生で事故が起きたときに大混乱を招くよりも、現在の日本の形の方が、停電の波及を最小限にとどめるという点では良いのではと思っています。

 日本の電力供給は非常に安定していて、今回の震災の規模が未曾有のものだったということを考慮すると、被災した発電所は別にして、送電ネットワークの改善すべき点を指摘することは難しいでしょう。周波数変換所の建設など、コストをかければ有事に備えることはいくらでもできますが、大切なのは事故の被害の大きさとそれが起きる確率を掛け合わせた「リスク」という観点です。今後、夏にかけても計画停電は避けられない可能性が高いと思われますが、私たちができることは、節電と計画停電に備えることです。停電するか否かというのは、電気の総量で決まりますので、一人ひとりの心がけが非常に重要になってくるのです。

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横山明彦(よこやま・あきひこ)
東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻教授。1956年生まれ。東京大学大学院工学系研究科電気工学専門課程博士課程修了(工学博士) 。広域停電,電力供給支障,災害波及などに詳しい。著書に『スマートグリッド』(日本電気協会新聞部)など。


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