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2011年3月28日

 岡本太郎が「爆発」している! 町中の本屋に行けば美術専門『美術手帖』『芸術新潮』はもとより、『Casa BRUTUS』『別冊太陽』、その他挙げれば切りがないほどの多くの雑誌が特集を組んでいる。そういえば近年、岡本太郎の本はハードカバーでも文庫でもよく出版されている。渋谷に巨大な作品が展示された、テレビドラマが放映されたなど、話題にも事欠かない。しかし待てよ、岡本太郎って「芸術は爆発だ!」とか何とか言ってコマーシャルに出ていたし、1970年という遥か昔、大阪万博に《太陽の塔》とかいう強大な彫刻を作っていたが、タレントのような印象も強い。

 そんな太郎の生誕100年を記念した展覧会が、東京国立近代美術館で開催されている。展覧会の企画・構成を担当した同美術館主任研究員の大谷省吾氏に開催趣旨を尋ねた。「川崎市岡本太郎美術館館長、村田慶之輔さんから3年前に企画をお願いされました。1996年に没していますが太郎はまだ皆の心の中で生きている、生誕祭をやろうと。当館で5点所蔵しておりますが、作品のほとんどは太郎がゆかりの地である川崎市に寄贈したので岡本太郎美術館が所蔵しています。川崎の美術館、青山の岡本太郎記念館が新しい視点で次々と企画を実現しているので、正直、どのように展示するか悩みました。研究の分野では、晩年のタレント性は評価されていません。しかし太郎の1950年代の大衆性と前衛性のあり方は、最後まで続いていたのではないかとも言えます」。

キーワードは「対決」

傷ましき腕  1936/49  川崎市岡本太郎美術館 © 岡本太郎記念現代芸術振興財団蔵

 川崎や青山で見られる作品をよりアレンジして展示することは、かなり大変な作業だったんだ。「結果として、太郎の生前を知る世代と知らない世代によって異なる見解や、専門家と一般の方の味方のギャップを埋める展示を心がけました。広くて分かりやすく。太郎の入門編と捉えて戴いて構いません。太郎の両親のことも、重要なカリグラフィの作品も出しませんでした。決して全体ではなく、一般の方が知らない太郎の部分を知って戴きたいのです。しかし、楽しいというポジティブな面だけではなく違和感などのネガティブな引っかかりを持って戴けるとありがたいです」。

 タレントに見えても、やはり太郎は芸術家であったのだ。でも何を以て「芸術家」とするのだろう? 美術作品を創って発表すれば「芸術家」なのだろうか? そのような疑問をこの展覧会では「対決」という明確な切り口で見せてくれる。ピカソ、「綺麗」な芸術、「わび・さび」、「人類の進歩と調和」、戦争、消費社会、太郎自身との対決という構成で作品は章分けされ、時代順に展示されている。

 みどころを大谷氏に聞いた。「ピカソという世界的な作家との対決から縄文を見直し、日本を再発見した後に大阪万博の《太陽の塔》を制作する。同時期に、原子爆弾で焼かれる人々を描いた《明日の神話》を描いている。このような太郎の制作の流れと、その行間にあるものを読み解いて欲しいのです」。

明日の神話 下絵(部分) 1968 川崎市岡本太郎美術館 © 岡本太郎記念現代芸術振興財団蔵

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