2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年6月1日

 5月14日、イスラエル建国70周年の日に、米国は大使館をテルアビブからエルサレムへと移転した。開設記念式典には、トランプ大統領の娘、イヴァンカとその夫でユダヤ教徒のクシュナー氏が、米国を代表して出席した。

(iStock.com/Wavebreakmedia/master1305/ chameleonseye/ StudioM1)

 米国の現職議員で参加したのは、共和党議員のみだったが。イスラエルの議員は超党派での出席だった。それを示すかのように、米国の調査では、ユダヤ系米国人のトランプ大統領への支持率は低く、中東和平進展なしでの米国大使館のエルサレム移転には反対の人が多い。一方、ユダヤ系イスラエル人の70%以上は、和平の進展がなくても、今回の米国大使館の移転に賛成している。このところ、ネタニエフ首相への支持率も上がっていて、この5月14日の首相演説は、勝利宣言のようだったと言われている。トランプ大統領の決定は、イスラエル建国70周年への、画期的なお祝いとなったのだろう。

 一方、米国大使館のエルサレムへの移転に対して、パレスチナ側では、ガザ地区で抗議デモが起こった。イスラエルは、そこに実弾射撃をした。これに関して、例えば、5月16日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、「ガザの抗議に対する不均衡なイスラエルの対応」と題する社説を掲載し、米大使館のエルサレム移転に抗議する非武装のデモ隊への実弾射撃を、厳しく非難した。 

 この社説は、イスラエルとトランプ政権を厳しく批判したものであるが、今回のイスラエルの過剰な武力行使およびトランプ政権のやり方はこういう厳しい批判に値するものであり、この社説は適切である。 

 非武装のデモに対し、実弾を使って 60人以上を殺害し、さらに 3700人以上を負傷させるのは、とんでもない過剰な武力行使である。アッバス・パレスチナ自治区大統領は、イスラエルの行為を「虐殺」と呼んでいる。

 なぜこういう事態が起きたのか、欧米諸国は国際的な調査を要求しているが、米国、イスラエルは拒否している。調査の上で、国際刑事裁判所にでも持ち出されるのを嫌っているのか、いずれにせよ、堂々とした対応からはほど遠い。おまけに、ヘイリー米国連大使は死者への黙とうに参加しなかった。 

 トランプ大統領とネタニヤフ首相は、イスラエル・パレスチナ紛争をどうしようというのか、全くわからない。この紛争については、要するに 2国家解決をするか、1国家解決を目指すかであるが、ネタニヤフ首相は、パレスチナ国家の樹立を認めることに躊躇し、 1国家解決を好んでいるようである。しかし、ヨルダン川から地中海までのパレスチナ地域には、イスラエル人よりパレスチナ・アラブ人がより多くなるのは時間の問題である。 1国家イスラエルで、ユダヤ人は少数派として生きるか、あるいは多数のパレスチナ人を無権利状態にして生きるかしかない。


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