今回は『老後破産しないためのお金の教科書 』の著者である塚崎が、相続と遺言の基礎知識について解説します。
相続とか遺言と聞くと、金持ちの話で自分には無関係だ、と考える庶民が多いのですが、じつは庶民が数百万の遺産を争そって兄弟喧嘩をするケースも多いのだそうです。むしろ「金持ち喧嘩せず」なのかもしれませんね(笑)。庶民の皆様、少なくとも本稿に記してある基礎知識くらいは知っておきましょう。
遺言がなければ各自が法定相続分を相続する
遺言がない場合に遺産がどのように相続されるのか、民法等に規定があります。亡くなった人を「被相続人」、法律の規定により遺産を相続する人を「法定相続人」、法律により決まっている相続割合を「法定相続分」と呼びます。
遺言があったり、法定相続人全員が合意して遺産分割協議書を作成したり、法定相続人が相続を放棄したりすれば、これと異なる相続が行われることになりますが、その場合でも議論の出発点は法定相続分となる場合が多いようです。
配偶者は、常に法定相続人となる
被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は常に法定相続人となります。ただし、ここで配偶者とは法律上の配偶者であって、事実上の絶縁状態であっても配偶者ですし、内縁の妻等は事実上の配偶者であっても法定相続人にはなりません。内縁の妻については後述します。
被相続人に配偶者がいて、子も親(自分の親のみ。配偶者の親は含まない。以下同様)も兄弟(姉妹も含む。配偶者の兄弟姉妹は含まない。以下同様)もいない場合、配偶者がすべての遺産を相続します。
被相続人に配偶者と子がいる場合、配偶者が半分、子が半分を相続します。複数の子がいる場合は、複数の子が半分を等分しますから、子が3人の場合、各自が全体の6分の1を相続することになります。
被相続人に配偶者と親がいて、子がいない場合には、配偶者が3分の2、親が3分の1を相続します。被相続人に配偶者と兄弟がいて、子も親もいない場合には、配偶者が4分の3、兄弟が4分の1を相続します。
被相続人に配偶者がいなくて子がいる場合には、子が全額を相続します。被相続人に配偶者と子がいなくて親がいる場合には、親が全額相続します。被相続人に配偶者も子も親もいない場合には、兄弟が全額相続します。
内縁の妻に遺産を渡すには遺言が必要
妻と絶縁状態となり、内縁の妻と暮らしているとしても、遺言がなければ遺産は妻が受け取り、内縁の妻には一切渡りません。それを望まないのであれば、被相続人が生前に遺言をしておく必要があります。
もっとも、配偶者や子などには「遺留分」という権利があって、「全額を愛人に遺贈する」といった遺言に対しては、「自分にも少しは遺産をもらう権利がある」と訴え出ることができるので、そうした争いを未然に防ぐためには、「妻などにも遺留分だけは相続させる」という遺言にしておいた方が無難かもしれません。
それ以外にも、遺言は様々な争いを未然に防いでくれます。「長男は高卒で働いたのに次男は大学の学費を出してもらったのだから、遺産は長男が多めに受け取る権利がある」「長男の家族が親の介護をし、次男の家族は何もしなかったのだから、長男には多めに遺産を受け取る権利がある」といった争いが起きかねません。
そうしたことを防ぐために、「長男に6割、次男に4割を相続させる」といった遺言をすれば良いのです。自分が遺した財産のことで子供達兄弟が口も聞かなくなったら悲しいでしょうが、故人の遺言があれば、さすがに両者とも黙ってそれに従うでしょうから。
遺言は、気が変わったら何度でも書き直すことができますから、とりあえず気楽に一度書いてみましょう。だれに何を相続させるのかの意思表示をするのですが、全文を自筆で書いて日付を書いて署名捺印すれば終わりです。
法改正により、平成32年7月10日以降は自筆で書いた遺言を法務局に保管してもらえるようになりました。遺言を作成しても、だれもそれを発見してくれなかったり、発見した人が廃棄してしまったりするリスクがなくなるわけです。その際、法務局が形式上の不備などをチェックしてくれるので、形式的な不備により遺言が後から「無効だ」と言われる可能性もなくなりました。
これまでは、自筆証書遺言はコストがかからない一方で、廃棄されてしまったりするリスクや形式不備で後から無効だと言われるリスクがあるのが弱点と言われていましたが、それが解決したのはありがたいことですね。