JAXA(宇宙航空研究開発機構)の探査機はやぶさ2が現在、小惑星リュウグウにおいて人類史上画期的なことを行っている。
リュウグウは、地球と火星の間で太陽を周回している直径900メートルのソロバン玉の形をした小惑星。地球から約3億キロ離れており、太陽系成立の謎を秘めた小天体だ。そのリュウグウにはやぶさ2が着陸したのは、今年の2月22日のことだった。
今回の着陸には二つの重要な意味がある。
着陸は本来は昨年10月末の予定だったが、大きな岩だらけの地形のため延期し、地表の3次元地図作りからやり直した。そしてエンジン12基の特性を生かした誘導プログラムを作成して精密に機体を制御、直径6メートルの着陸地点に誤差1メートルという精度で着陸させることに成功したのだ。
この高精度の着陸技術は、今後の宇宙開発において日本の「切り札」になるはず。
なぜなら、地球から約38万キロ離れた月面で、これまで軟着陸した探査機や宇宙船は、米・ロ・中の計21機だが、その着陸誤差は1~数10キロもあったからだ(21年度に月着陸予定のJAXAの無人小型機SLIMは誤差100メートルの着陸を目指している)。
もう一つは、試料採取の弾丸発射の成功。
はやぶさ2は着陸と同時に機体下部の装置から弾丸を発射し、舞い上がった地表の砂や土を保管庫に収めた模様。これは05年9月、初代の探査機はやぶさが小惑星イトカワへの着陸時に試みて弾丸が出ず失敗した作業(ただし着陸の衝撃で舞い上がった微粒子を運よく採取・回収できた)のリベンジであり、小惑星の試料採取では世界で(前回のはやぶさの「幸運」に続く)2例目の快挙である。
なぜリュウグウの試料が貴重なのか?
前回のイトカワの岩石は太陽系の形成につながるS型のものだった(微粒子の分析により、太陽系誕生と同じ約46億年前に結晶化し約15億年前に他の天体の衝突で変成を受けたとわかった)。
ところがリュウグウの岩石は炭素の含有量が多いC型であり、地球の生命の起源につながる水分や有機物を含むと考えられている。
つまり、なぜ海が生まれ、地球が生命溢れる「水の惑星」なのかの謎に迫れるのだ。
実際、3月19日にJAXAなどが米科学誌『サイエンス』に発表した論文によると、昨年6月以降のリュウグウの赤外線観測の結果、酸素と水素が結びついた成分を含む「含水鉱物」が地表に広く分布すると判明した。
そして4月5日にはいよいよ地下探査だ。
2月の着陸地点とは別の場所に、上空から重さ2キロの銅の塊を撃ち込み、深さ約50センチの人工クレーターを作る。地下の物質は、放射線や太陽光など宇宙からの影響を受けておらず、46億年前に太陽系ができた頃のままと推察され、きわめて貴重な試料だ(再度の着陸と地下試料の採取は、爆発時噴出物の落下を待って、4月下旬以降の予定。地球帰還は21年末になる)。