足立倫行のプレミアムエッセイ

2019年3月27日

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 私がはやぶさ2の活躍に注目しているのは、JAXAによる宇宙開発・宇宙利用の数々が近年珍しい「規模壮大な明るいニュース」だからだが、私の居住地も影響している。

 実は私が住む相模原市には、宇宙に関するさまざまな学術研究を行うJAXA宇宙科学研究所があり、探査機はやぶさ2をコントロールしている管制室もその中にあるのだ。

 宇宙科学研究所に隣接する相模原市立博物館の館内にはプラネタリウムがあり、しばしば最新の宇宙に関連する講演やイベントが開催され、ロビーには初代の小惑星探査機はやぶさの実寸大の模型が展示してある。

 先日、久しぶりに市立博物館に行ってロビーではやぶさを目にした時、数年前にプラネタリウムで見た映画を思い出した。小惑星の砂を採って地球に帰還するという、人類初の使命を果たした奇跡のドラマの映像化である。

 03年5月に打ち上げられた初代はやぶさは、2年4ヵ月後に小惑星イトカワに到達した。しかし着地の際にバランスを崩して落下、既述のように弾丸を発射できず、燃料タンクの破損などで12月9日に通信不能となる。

 プロジェクト打ち切りも検討されたが、太陽光電池パネルの回復を願って指令を出し続けた結果、何と46日後にはやぶさが応答した。けれど一難去ってまた一難。今度は4基のエンジンすべてが故障したのだ。この時はエンジンの残りを繋いで辛くも作動に成功。

 こうしてはやぶさは不可脳と思われた地球へ7年ぶりとなる帰還を果たし、大気圏突入で自らは燃え尽きながら、「宝石」同様の採取試料入りのカプセルを地上の我々に届けた……。映画を見た多くの人と同じく、私も胸が熱くなり、涙腺が緩みそうになった。

 今回のはやぶさ2も、初代ほどではないものの数々の試練を乗り越えている。2月にリュウグウ着陸が成功した時、プロジェクトを指揮したJAXAの吉川真准教授が語っていた。

 「はるか彼方で一人ぼっちだったが、複雑なミッションを完璧にこなしてくれた。ありがとうと言いたい」(2月22日付東京新聞)。

 探査機の擬人化は、人間と機械との圧倒的信頼関係のなせる術なのだが、いかにも日本的だ。このような擬人化(機械への愛情注入過多?)は宇宙開発にとっていいことなのだろうか?

 私も、宇宙開発の裏面に軍事開発競争が貼りついていることを知らないわけではない。トランプ政権は昨年8月、20年までに「宇宙軍」を創設すると表明した。空軍が管轄する宇宙分野を独立させ、「宇宙作戦部隊」などを含む新たな軍隊組織を確立するという。

 最新の衛星攻撃兵器を持つロシア「航空宇宙軍」や07年に地上発射ミサイルで自国衛星を破壊して見せた中国に対抗するためだ。

 このまま行けば、宇宙空間がサイバー空間と並ぶ新たな現代の戦場と化してしまうのは明らかだ。その時、日本の宇宙開発の「真の目的」が米「宇宙軍」への情報提供であっていいのか?

 私は、今のうちに早く、日本の宇宙技術の特色を世界に知らせておくべきだと思う。例えば、ピンポイントの小惑星衝突技術の活用。

 はやぶさ2が証明した誤差1メートルの探査機制御技術が、地球に衝突する恐れのある小天体を回避する際にも役立つことは、一部で早くから指摘されていた。であれば、地球に接近する(多少ズレていてもかまわない)小惑星などに、一度日本の探査機をぶつけ、軌道を変えて見せるのだ。

 衝突による人類破滅を日本の技術(機械を擬人化する「入魂」の技術?)が救う……。それが証明されれば、どの国も日本を宇宙軍事競争に巻き込み、消滅させようとは思わないはずだ。そして、これ以上確かな安全保障策もないと思う。

  
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