2025年1月2日(木)

家庭医の日常

2024年12月30日

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(sefa ozel/gettyimages)

<本日の患者>
M.S.さん、43歳、男性、米農家。

 「年の瀬にとんでもないことになっちゃいました。今朝起きたら、腰が痛くなって、動けなくなったんです」

 「大変でしたね。朝から数時間経って、痛み少しはマシですか」

 「まだ痛いです。病院へ行って検査したりしなくて大丈夫でしょうか」

 「まず、ここでM.S.さんの症状と心配について詳しく聴かせもらいながら診察します。その結果で検査や治療をどうするか相談しましょう」

 M.S.さんは、後継者探しに困っているこの地域の農家の中にあって、10年前に率先して実家にUターンして両親と米作りを続け、今では若手農家のリーダーである。大学では食品工学を学び、その後就職した商社でも食のサプライチェーンを育てるプロジェクトに一時関わっていたそうで、現在も米作りを通して地域の健康を考えたいと、私たち家庭医のプラネタリー・ヘルス活動にも興味を持ってくれている。

若者にも多い腰痛

 「天災は忘れた頃にやってくる」とは、物理学者で随筆家の寺田寅彦が言った言葉だが、「腰痛は忘れる前にやってくる」、つまり症状が軽くなっても完治せず、増悪・寛解を繰り返して継続していくことが多い。

 M.S.さんの腰痛は、10年前に就農してから始まり、今までに5回大きな発作を繰り返している。今回は、ここ1週間ぐらい、蔵の模様替えをするために重い物品を移動させることが続いたからだろうというのがM.S.さんの「解釈」だ。

 腰痛とは、通常、背中で12番目(1番下)の肋骨がある位置の下からお尻の丸みが終わる下縁までの範囲に起こる痛みである。日本語では「腰」の痛みと言うが、英語では「下背」の痛み(low back pain)と表現されることが多い。

 腰痛は、家庭医が日常よく遭遇する健康問題でもある。人生のある時期に腰痛を経験する成人の割合(生涯有病率)は80%近い、と言われることもあった。しかし、その元になるデータの対象地域は限定的であり、もっとグローバルに54カ国で行われた研究165件のシステマティック・レビューによれば、腰痛の生涯有病率は38.9%と推計されている。

 以前は、腰痛は小児期や思春期には多くないと思われていたが、28カ国(日本は含まれていない)の10〜17歳、40万人超を対象とした研究では、37%の対象が少なくとも1カ月に1度の腰痛があった。


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