2025年1月4日(土)

家庭医の日常

2024年12月30日

腰痛の大部分に特異的原因はない

 腰痛は、特定の疾患などによって引き起こされる「特異的腰痛」と、明らかな特異的原因のない「非特異的腰痛」に分類される。

 特異的腰痛の原因としては、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、圧迫骨折、脊椎すべり症、腫瘍、強直性脊椎炎、股関節疾患、前立腺炎、子宮内膜症、大動脈瘤などが含まれる。実は、こうした特定の原因が明らかでない「非特異的腰痛」が腰痛の80〜90%と大多数を占める。

 基本的に、非特異的腰痛の診断には特異的腰痛を除外する、すなわち特定の疾患がないことを示すことが必要なので、なかなか悩ましい。家庭医にとって大きなチャレンジである。

 一度に多くの検査をしてしまえば良いと思われるかもしれないが、それでは、不必要な検査が含まれる可能性が高く、それらによって患者が苦痛を強いられることになる。医療経済的には無駄な出費となり、患者、保険者、国・自治体などの負担増になる。出来高払い制をとっている日本では、多くの検査をすることで医療機関への収入が増えるので、医療者側のモラルが問われることにもなる。

腰痛の「レッドフラッグ」と「イエローフラッグ」

 腰痛患者の臨床評価は、ただちに検査や専門医療機関への紹介などが必要となる「レッドフラッグ」と呼ばれる潜在的な危険信号がないかを、病歴と身体診察に基づいて確認することから始める。これには、外傷の既往、説明できない体重減少、神経学的異常所見、年齢が50歳以上、発熱、麻薬使用、長期のステロイド使用、がんの既往、免疫不全などが含まれる。

 さらに、「イエローフラッグ」と呼ばれる、腰痛の再発や慢性化に深く関与する心理的、環境的、社会的リスク要因がないかを確認する。このイエローフラッグには、痛みや活動は有害だという強い思い込み、補償の請求、長期の病欠、気分の落ち込みや引きこもり、病気に対する大袈裟な反応、支援ネットワークの欠如、過保護な家族、などがある。

 より強い痛み、肥満、うつ病、対処行動スキルの低さ、不安を抱える患者、喫煙者、または高強度の肉体労働を行う患者も、慢性化リスクが高くなる。一方で、定期的な身体運動は、再発や慢性化に対して予防効果があるという。

 家庭医は、これらの要因を探りケアに結びつけることに適した専門医だと言える。健康問題を生物医学的にのみ扱わないで、心理社会的そして環境にも配慮してケアするトレーニングをしているからだ。

 通常、非特異的腰痛患者には画像検査やその他の診断検査を行わないことが強く推奨されている。費用がかかる上に、偽陽性で(本来する必要のない)更なる検査をしてしまい、過剰医療となる危険がある。


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