2024年12月22日(日)

家庭医の日常

2023年8月25日

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(Casanowe/gettyimages)

<本日の患者>
S.B.さん、63歳、男性、青果店主。

「先生、おはようございます。あれっ、なんか浮かない顔してますね。先生も悩み事があるんですか」

「あ、Cさん。おはよう。そりゃ僕だって悩み事はありますよ(笑)。でも今日は個人的なことじゃなくて、患者さんのケアのこと。どの運動が血圧を一番下げるかについての新しい臨床研究が発表されたんで、そのことを今週予約しているS.B.さんにどう説明しようか、あれこれ考えてたんだよ」

「また『不確実性に耐える』だったみたいですね(笑)。で、どんな運動が一番だったですか」

「アイソメトリック、つまり、とうしゃくせいしゅうしゅくうんどう」

「え、何ですって?それ、早口言葉ですか」

 私の診療所で働く主任看護師のCさんは勘が良い。そう、臨床研究のエビデンスを知れば知るほど、不確実性が増えていくように感じられるものなのだ。

血圧を下げるために最適な運動は

 その新しい臨床研究は、7月25日に『英国スポーツ医学雑誌』に論文として発表されたものである。高血圧をもつ患者へ推奨すべき運動は何かを知るために、関連するすべての運動・トレーニングが安静時の血圧に及ぼす影響について、大規模なメタアナリシス(複数の臨床研究の結果を統合して統計的に解析する研究方法)を実行したのだ。

 1990 年から 2023 年 2 月までに発表された、2週間以上の運動介入後の血圧の低下を報告した270件の臨床研究が最終分析に含まれ、プールされた患者数は1万5827 人だった。

 2週間以上の運動を行なった結果(安静時血圧の低下)は次の通りだ。低下した血圧を「収縮期血圧 / 拡張期血圧」の順に記載している。なお、血圧(動脈内の血液の圧力)は水銀柱ミリメートル(mmHg)単位で表示される。わずかの低下に見えるかもしれないが、心血管疾患や死亡を減らしうる差なのだ。

 日本高血圧学会が19年に発表した『高血圧治療ガイドライン2019』では、診察室(外来)における標準的な血圧測定法(診察室血圧と呼ぶ)で140/90 mmHg以上、家庭などで患者が家庭血圧計を用いて標準的な方法で測定する血圧(家庭血圧と呼ぶ)で135/85 mmHg以上を高血圧と分類している。

 俗に「上の血圧」と呼ばれる高い方の数値は、ポンプとしての心臓が拍動するときの動脈内の血液の圧力に相当し、「収縮期血圧」と呼ばれる。「下の血圧」は低い方の数値で、拍動と拍動の間の圧力に相当し、「拡張期血圧」と呼ぶ。

・有酸素運動(筋肉を動かすエネルギー源として糖と脂肪に加えて酸素が使われる運動。ランニング、水泳、自転車走行など)4.49/2.53
・動的抵抗トレーニング(筋肉に抵抗をかける動作を繰り返す、いわゆる筋力トレーニング)4.55/3.04
・複合トレーニング(有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせ)6.04/2.54
・高強度インターバルトレーニング(負荷の高い運動と小休憩を交互に行う)4.08/2.50
・等尺性運動(関節を動かさないで筋肉に力を入れる運動)8.24/4.00

 ご覧のように、今回検討されたすべての運動・トレーニングは、2週間以上継続することで安静時血圧を下げる効果があったが、最も効果があったのは等尺性運動だったのである。では、その等尺性運動とはどのような運動か。


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