2024年5月17日(金)

家庭医の日常

2023年8月25日

等尺性運動とは

 「等尺性」はその英語から「アイソメトリック」とも呼ばれ、言葉本来の意味は「長さが変化しないこと」だ。これは筋肉の長さについてのことで、関係する関節を動かさずに(したがって筋肉の長さを変化させずに)力を入れる運動である。

 今回の臨床研究で検討された等尺性運動は、「壁スクワット」と「プランク」の2つだった。どのような運動なのだろうか。まず文字で説明してみよう。

壁スクワット
 壁に背中全体を密着させて、肩幅に開いた両足を壁から約60センチメートル離し、股関節と膝関節が共に直角になるように曲げて、両もも(大腿)が床面に対して平行(水平)になるように、そして両すね(下腿)が床面に対して垂直になるように保持する。その姿勢を2分間維持する。休憩後繰り返す。
(注:日本では壁の方を向いた「壁スクワット」もあるようだが、それとは別の運動である。)
プランク
 うつ伏せになった状態で、左右の前腕を体の横幅の距離で平行にして、手のひらから肘までを床面につけて、上腕が床面に対して垂直になる(両肩の真下に両肘がくる)ようにして、頭、首、背中、腰、太もも、膝、ふくらはぎ、足首で作られた軸が空中でまっすぐになるようにして、左右のつま先を床面について保持する。その姿勢を2分間維持する。休憩後繰り返す。

 この研究は、英国の公共放送BBCで早くも論文発表翌日(7月26日)の『BBC News』で詳しく取り上げている。百聞は一見に如かず。このホームページに掲載されている図を見れば、「壁スクワット」も「プランク」もどんな姿勢をとるのか一目瞭然である。

実際にやってみて現実的に考える

「先生、この『壁スクワット』、かなりきついですね!太腿がパッツンパッツンに張ってきます。はぁー!」

「そうなんです。私も試してみたんですけど、かなりきついです。こっちの『プランク』もなかなかハードですよ。2分間維持するのは大変ですよね。ふぅー!」

 診察室の床を使って「プランク」をして見せながら、私は、診察室の壁を使って「壁スクワット」をするS.B.さんを見上げた。2人とも息が上がっている。

 S.B.さんは、この町でずっと青果店を営んできた。大学卒業後商社に勤めていた一人息子が3年前に帰って家業を継いでおり、青果店はITなども活用したネットショップへと大きく舵取りを変えてきた。S.B.さんと親の代から付き合いのある多くの生産者とのネットワークを活用して、消費者へタイムリーに質の高い品物が届けられるように息子がネット宅配サービス・システムを構築した。コロナ禍で外出が制限された時期と重なり、地域の若い世帯からもかなり支持されているとのことだ。

 高血圧と脂質異常症があって、2年前から私が働く診療所に通っているS.B.さんは、息子の仕事ぶりに満足しているが、ネットショップのため店先で働くことがほとんどなくなったことが「唯一残念に思う」ことだそうだ。


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