2023年11月28日(火)

家庭医の日常

2023年6月24日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

WONCA〈世界家庭医機構〉マスター・ファカルティー、福島県立医科大学名誉教授〈地域・家庭医療学〉

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から福島県立医科大学医学部地域・家庭医療学講座主任教授。2023年退職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(Maya23K/gettyimages)

<本日の患者>
Y.C.さん、56歳、男性、酒造会社事務部長。

 「Y.C.さん、先週の検査からは糖尿病という疾患にかかっている可能性が高いです」

 「えー、やっぱり糖尿病ですか」Y.C.さんの顔に戸惑いの表情が浮かぶ。

 「糖尿病についてこれから説明しますが、今の時点で、糖尿病についてY.C.さんはどんなことを知っていますか」

 「実は親父が糖尿病なんですが、私はあんまり知りません。えーっと、ひどくなると足を切断しなきゃならないとかなんとか……でしたっけ」

 Y.C.さんは、半年前に受けた社員健康診断(健診)の結果を持って、私のいるクリニックを1週間前に初めて受診した。健診では血糖と過去1〜2カ月の血糖値の平均を反映するHbA1c (ヘモグロビンエーワンシー)の値が高く、その他、Y.C.さんが持参した健診結果のシートからは、タバコを吸っていることと、ここ数年で体重が増えてきたことがわかった。

 その日の身体診察で大きな異常所見がないことを確認して、糖尿病の診断を確定するために、3日前に来院してもらって、採血でHbA1cを再検査し、今日結果を伝えて今後のマネジメントを相談する予定にしていたのだ。

糖尿病の罹患率がわからない日本

 ある時点である疾患にかかっている人が調査対象人口あたりどのぐらいいるかの割合は「有病率」という。一定の観察期間中に観察対象集団の中でその疾患に罹った人がどれだけ発生したかの割合を「罹患率」という。

 糖尿病という疾患の対策が日本の医療でどのぐらい大きな問題なのか知りたい、出来たら国際比較もしたい、という時に、糖尿病の有病率と罹患率はぜひとも知りたい数字である。しかし、日本で信頼するに足る最新の数字を見出すことは、実はとても大変なのである。

 現時点では、2019年の厚生労働省『国民健康・栄養調査』のデータが最新だと思われる(2020年と21年はコロナ禍の影響で調査中止)。そしてそこでは、20歳以上で「糖尿病が強く疑われる者」の割合が男性で19.7%、女性で10.8%であると示されている。

 しかし、この調査の「結果の概要」を読む限り、「糖尿病が強く疑われる者」とは、「糖尿病と診断された人」とは微妙に異なるようだ。そこでは高血糖の指標となるHbA1c値が6.5%以上で、「問診」項目にある「糖尿病治療の有無」という問いに「有」と回答した場合に「糖尿病が強く疑われる者」と定義している。実際に医療機関で糖尿病と診断された患者数ではないのだ。


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