かかりつけ医レベルでの情報収集が課題
有病率にしろ罹患率にしろ、日本で日常よく起こる健康問題について「リアル」の実態を把握しづらいのは、プライマリ・ヘルス・ケアの現場(「ポイント・オブ・ケア」と呼ばれる)でのタイムリーな情報収集ができていないからだ。多くの国々では、電子カルテと連動してコード化された受診理由、診断名、治療経過などの情報が家庭医診療所レベルで収集できるシステムが構築されている。家庭医がポイント・オブ・ケアで入力した情報が集積されて、有病率や罹患率もタイムリーに把握できる。コロナ禍でさらに整備が進んだ国も多い。
ちなみに、コロナ禍の21年度であっても、この年度内に英国全体で新たに14万8591人が糖尿病と診断されたことが公開されている。一桁まで数字が把握されていることは驚きである。
英国では、すべての住民にかかりつけの家庭医診療所があるので、そこで家庭医が新たに糖尿病を診断すればそれがデータベースに登録され、継続したケアが提供されていくのである。コロナ禍でオンライン診療の割合が増えても基本的に同じことである。
日本政府は、花粉症対策が必要として関係閣僚会議でスギの人工林を約2割減らすことを目標に掲げた。花粉症の発生源となるスギを中心に伐採を進め、30年後には花粉量を半減させるという。
こうした全国規模の対策にしても、プライマリ・ヘルス・ケアの現場で実際に花粉症がどのぐらい大きな問題になっているのかの正確な把握ができれば、もっと実態に即した効率的な政策となるはずである。
糖尿病にかかる医療費
日本で糖尿病の正確な患者数が把握しづらいなら、糖尿病患者全体にかかる医療(費用)の大きさはどうか。ということで、参考までに昨年出版した私たちの研究論文『糖尿病健診における過剰と過少―医療資源の効率利用に関する研究―』から数字を挙げてみる。
20年に厚生労働省が発表した18年度のわが国の国民医療費(保険診療の対象となる傷病の治療に要した費用の推計)は、43兆3949億円である。そのうち1兆2059億円は糖尿病にかかる医療費である。ちなみに高血圧性疾患にかかる医療費は1兆7981億円。この両者で3兆円余り、国民医療費の約7%を占める。
薬が何に効くかで分類した薬効別売上金額を見てみると、11年度には、レニン-アンジオテンシン系作用薬(降圧薬の一種)、抗腫瘍剤、脂質調整剤および動脈硬化用剤、制酸剤・鼓腸および潰瘍治療剤についで5番目の売上高だった糖尿病治療薬は、毎年4~9%ほどの増加を続け、20年度には、抗腫瘍剤に次いで2位になっている。
これだけ多くの医療費や薬剤費を糖尿病の治療に費やしても、糖尿病が要因の透析患者は増え続けている。人口比の日本の慢性透析患者数は、国際比較でも台湾に続いて飛び抜けて多い。21 年末において日本人100万人あたり2786.4 人が透析患者で、そのうち糖尿病で腎臓が悪くなっている糖尿病性腎症は、慢性透析患者の40.2%である。