2022年12月2日(金)

家庭医の日常

2022年10月21日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
 

<本日の患者>
M.I.さん、38歳、男性、市役所観光課。
Y.I.さん、36歳、女性、小学校教諭、M.I.さんの妻。

 「妻とも相談して、そろそろ妊活しようと思っているんですが、アルコールって妊娠中はだめなんですよね」

 「大事なことを質問してくれてありがとうございます。そうなんですよ。確かM.I.さんの奥さん、週末は一緒にビールとワインを飲むんでしたよね」

 「ええ。一人で禁酒させるのもかわいそうだなあ。でもどうしたら良いんでしょう」

 「一緒に考えましょう。実は、アルコールのこと以外にも、妊娠する前のカップルに伝えたい健康の情報があるし、お二人の状況や希望を聴いて話し合いたいことが結構あるんです。こういうのをまとめて『プレコンセプション・ケア』って呼んでます。『受胎前のケア』という意味です」

 「エル・グレコを連想しちゃいますね」

 「えっ? ああ、『受胎告知』ですね。M.I.さんは大原美術館がある倉敷出身って言っていたから、それでピンときたのでしょう。でも、この頃は『受胎』という日本語は日常でほとんど使われなくなっちゃいましたね」

 M.I.さんと奥さんのY.I.さんは、今まで私のクリニックを受診したことはないけれど、M.I.さんが勤務する市役所観光課とY.I.さんが勤務する地元の小学校が共催した地域のイベントを私が手伝ったことがきっかけで親しくしている。確か子どもはまだいなかったはずだ。

 今回初診となるM.I.さんの受診理由は、今年の職場の健康診断(健診)で血圧が高かったとのこと。健診では156/95 mmHgだったが、普段から家で測定しているその値(家庭血圧と呼ぶ)はいつも120/70 mmHgぐらいだという。

 「毎年こうなんですよ。それで毎年お医者さんを受診するように言われて、いろいろ検査されて結局なんともない。その繰り返しなんです。でも今年は、知らない先生じゃないのでちょっと安心です」

 2021年9月の『健康診断結果から生活習慣を改善するには』で書いたように、私にも健診で似たような経験がある。家庭血圧が正しく測定されていればその値を指標にしていけば良いので、M.I.さんの血圧は心配ないだろう。M.I.さんがどのように家庭血圧を測っているかを確認した上で、他に心血管系のリスクを高める要因がないか問診を進めていった。

 結局、年齢が若いこともあってM.I.さんのリスクは低かった。その際アルコールの話が出て、冒頭の会話となったのだった。

まだ知られていない妊活前の「プレコンセプション・ケア」

 「妊活」に定まった定義はないと思うが、避妊をしないことから不妊治療までさまざまなものが含まれるのだろう。ここでは、広く「赤ちゃんが欲しい」「妊娠したい」と願う行動すべてを「妊活」と言うことにする。

 ちなみに東京都では保健福祉局に「妊活課」を作って、妊娠のために知っておきたい知識を掲載している妊娠支援ポータルサイトを公開している。先日それを発見して感心したら、そのサイトの下段をよく見ると「*『東京都妊活課』はwebページ上の架空の組織であり、実在しませんのでご注意ください」と書かれていて、失笑してしまった。確かに、(実在する)「東京都保健福祉局少子社会対策部家庭支援課母子保健担当」の名前では、サイトを訪れる人は多くないだろう。

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