科学者はその日までに得られたデータを科学的知見として発表するが、COVID-19のような特に未知の部分が多いウイルスの未曾有のパンデミックでは、科学的知見として今日発表したことが翌日には別の科学的知見に取って代わられることが頻繁にあった。
最初の週に「このウイルスは人から人へはほとんど感染しない」として発表された科学的知見が、数週間後には「エアロゾルによって人から人へ容易に感染する」という科学的知見へ訂正された。前者が「嘘」で後者が「不変の真実」ではないのである。
後者の「真実」もやがてまた新しい科学的知見で塗り替えられる。しかし社会からは「科学者は嘘をついている」と非難された。「不変ではない」という科学的知見の本質を一般の人たちに理解してもらうのが大変だったのである。
ウクライナの家庭医:続報
2022年3月の『危機のウクライナで奮闘する家庭医 広がる支援の輪』、2022年4月の『患者の意思に沿うため家庭医の卵が学んでいること』で紹介したウクライナ西部のウジホロドでの家庭医たちの奮闘のその後であるが、嬉しいニュースが届いたので共有したい。
ウジホロドに多国間共同国際家庭医診療所、その名も『INTERFAMILY』が9月23日にオープンしたのだ。世界の家庭医たちからの文字通り「ヒト(対面とオンラインでの専門教育の提供)・モノ(診療機器・薬品・材料の寄贈)・カネ(寄付金)」に支えられている。住民・避難民の生活の場に近い立地であることもあり、多くの人たちが利用している。
さらに、この教育診療所で家庭医になるトレーニングを受けたいという医学生・研修医・医師が集まっているという。興味深いことに、生命の危機がすぐそこにある状況下で、他科専門医の中からもこうした状況の最前線で人々の健康を守る家庭医になることへの関心が集まり、家庭医としての再教育を希望する医師が出てきているとのことだ。
家庭医の機能が平時だけでなく、戦時下でも求められていることを物語っている。