2022年12月3日(土)

家庭医の日常

2022年7月23日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(sefa ozel/gettyimages)

<本日の患者>
T.H.さん、42歳、証券会社営業マン。

 「先生、ここでは皮膚科や整形外科も診てくれるって本当ですか」

 「はい。ここで診察して、必要な場合にはそれぞれの専門医へ紹介もできます。今日はどうしたんですか」

 「ちょっとこいつを診て下さい」

 T.H.さんは、彼の右の人差し指を前に突き出して、それを私へよく見せようとして椅子をずらして間合いを詰めてきた。体からわずかにファストフードの油とタバコの臭いがした。

 「こんな風に指が腫れてきたんです。これって、大丈夫ですか」

 「なるほど。いつからどのようにしてこんな風になってきたのか話してもらっていいですか。その後で診断のためにいくつか私から質問させて下さい。大丈夫かどうか、それでだいたい判断できると思います」

麻婆茄子が食べたい!

 T.H.さんの話と私からの質問の答えをまとめると、このようになる。

 1週間前に、暑いので無性に麻婆茄子が食べたくなって、麻婆茄子のインスタント調味料と茄子を買ってきた(現在T.H.さんは単身赴任で、週末に家族の元へ帰る生活だ)。茄子を洗っている時に、一度チクッとした感じがあり、茄子のヘタの尖った部分を右人差し指の先に刺したかもしれなかった。

 出血はなく刺し口もどこかはっきりしなかったので、手指を洗ってそのままにしていた。「追加情報です」と前置きして、麻婆茄子がとても美味しくできてビールとご飯がすすんだことを、T.H.さんは嬉しそうに話してくれた。

 「でもね、先生。2〜3日すると、右人差し指の爪の周りが腫れてきたんですよ。徐々にズキズキした痛みを感じるようになってね。第1関節から先の指全体が赤みを帯びて熱を感じるんです。今日まで腫れの見た目はあまり変わらないけど、何か、緊満度っていうんですかね、内側から押される感じが強くなっています。これって、大丈夫ですか」

 「じゃあこれから、腫れた指に触ったり、体の他のところも診察しますね。大丈夫かどうか、それでより正確に判断できると思います」

爪周囲炎の治療

 私は、T.H.さんへいくつか追加の質問をしつつ、彼の指と全身の状態を確認するための診察をした。診断としては爪周囲炎が最も考えられた。

 爪周囲の皮膚から細菌が侵入して感染を起こし、化膿した状態である。爪があるためその下の限られたスペースに膿が溜まり、内圧が高まって緊満し、ズキズキ感が強くなる。

 食材では茄子のヘタが原因となることが比較的多い印象を私はもっている。治療は抗菌薬の内服に加えて、膿を出すために皮膚にメスなどで切れ目を入れることだが、爪の周りや下に溜まった膿はなかなか排出されず治癒に時間がかかるので、可能であれば爪に小さな穴を開けると治癒を促進できて効果的である。

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