2024年5月17日(金)

家庭医の日常

2023年6月24日

 糖尿病患者の有病率や罹患率などプライマリ・ヘルス・ケアの現場でタイムリーな情報収集ができていないこととは対照的に、日本では、より細分化された臓器別専門分野での患者数の把握や統計の整備は進んでいる。透析がよい例で、日本の慢性透析療法の現状については、日本透析医学会により、年末に締めた詳細な統計とその分析が毎年公開されている。

新たな診療ガイドラインの衝撃

 22年6月に、英国NICEが成人2型糖尿病診療ガイドラインの改訂版を公開した。そして同じ年の9月に、米国糖尿病学会と欧州糖尿病学会とが合同で、2型糖尿病における高血糖マネジメントについてのコンセンサス・レポートを発表した。

 日本では、おそらくまだ医師の間でもあまり話題になっていないと思われるが、これら2つの文書の推奨事項が診療現場で行われるようになると、成人の2型糖尿病(糖尿病の約9割を占める)の薬物療法は、根本的に大きく変わる可能性がある。

 新しい診療ガイドラインの改訂の要点をごくごく単純に一言で言うと、SGLT2阻害薬を2型糖尿病の治療の中心に据えたのである。

 糖尿病で血糖を下げる治療薬には、作用の仕方の違いによって、スルホニル尿素薬(エスユー薬)、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、DPP-4阻害薬(グリプチン薬)、GLP-1受容体作動薬、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、グリミン薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬(フロジン薬)など、さまざまな系統がある。従来の諸外国の成人2型糖尿病の診療ガイドラインでは、多くの場合、ビグアナイド薬の一つであるメトホルミン塩酸塩が、薬物療法で第一に選択すべき薬剤として推奨されていた。日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン2019』では明確な第一選択薬の推奨は記載されていない(p. 70)。

 ところが、この新たな診療ガイドラインで、糖尿病をもつ人が併存疾患として心臓疾患がある場合、心血管疾患を起こすリスクが高い場合、または慢性腎臓病がある場合には、SGLT2阻害薬を第一選択とすることが推奨されるようになったのだ。

 英国NICEでは費用対効果の観点から、メトホルミン塩酸塩も第一選択として併用することを推奨したり、米国糖尿病学会と欧州糖尿病学会ではGLP-1受容体作動薬も第一選択として推奨したりと若干の差はあるものの、SGLT2阻害薬を強く推奨していることに変わりはない。

SGLT2阻害薬の有益性を示すエビデンス

 SGLT2阻害薬は、比較的新しく登場した糖尿病治療薬である(日本では14年から)。腎臓にある糸球体という部位で血液から一度濾過されて尿に排出されたブドウ糖は、腎臓の尿細管という別の部位で通常再び取り込まれて血液に戻る。これが通常のからだのメカニズムである。この再取り込みを担うナトリウム・ブドウ糖共役輸送体(SGLT)の働きを阻害して、ブドウ糖を尿へ排出して血糖を下げるのがSGLT2阻害薬である。

 欧州心臓病学会の学術雑誌『European Heart Journal』 の論説がSGLT2阻害薬を「21 世紀の心臓血管医学における最も大事な薬理学的進歩(またはその1つ)」と称賛したように、SGLT2阻害薬は、心血管リスクの大幅な軽減を示す豊富なエビデンスを示してきた。


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