臨床研究への参加リクルート
こうした腰痛での治療法の選択肢が定まっていない状況を反映して、さまざまな選択肢を比較検討するさらに新しい臨床研究が必要とされている。英国の国民保健サービス(NHS)の市民向け健康情報提供ウェブサイト『Health A to Z』で腰痛(ここではBack pain)の項目を見てみると、その末尾に「研究を通じて人々の人生に良い変化を与えましょう。現在英国で実施されている 10 件の腰痛研究が、あなたのような参加者を募集しています」という、保健医療研究へ資金提供する英国政府の公的機関(National Institute for Health and Care Research; NIHR)が広告を掲載しているほどだ。
広告をクリックすることで、それぞれの研究の詳細を知ることができ、研究チームとコンタクトを取ることもできる。
リハビリテーションの重要性
リハビリテーション(以下、リハビリ)と言うと、脳梗塞による麻痺に対する歩行訓練や、慢性閉塞性肺疾患での呼吸訓練などのように、限られた障害といったごく一部の人にしか必要とされないサービスとみなされていないだろうか。そのため、患者個人にとっても、周囲の人々や社会にとってもメリットがあるにもかかわらず、世界各国で優先されておらず、リソースも不足しているとの指摘がある。
こうした背景から、リハビリの恩恵を受ける人の数について検討し、世界、地域、および国別の推計データを提示する研究が行われ、英国の医学雑誌『ランセット』に発表された。
リハビリに適していると選択された25の病気や障害の中で、腰痛は最も有病率が高かった。19年に全世界で腰痛をかかえる5億6800万人がリハビリによって恩恵を受ける可能性があり、その数は90年と比較して47%増加していると推計された。ケアにかかる費用も、日常生活で起こる障害も腰痛が最大だった。
この研究は、腰痛に限らずリハビリに対する世界的なニーズの推計値を示し、全体として世界で少なくとも3人に1人が病気やけがの経過中にリハビリを必要とすることを示した。リハビリが少数の人々だけに必要なサービスではなく、プライマリ・ヘルス・ケアの不可欠な部分として家庭医とリハビリ専門職が地域で協働していく必要があることを学ばせてくれる。
M.S.さんは、今回も「レッドフラッグ」に該当するものは神経学的異常も含めて見出せず、「イエローフラッグ」としては、本人も自覚していたように高強度の肉体労働があった。来年、新しいプロジェクトのために蔵をリフォームしなければならず、どのような身体使いをしたら腰痛を予防できるか、いくつかの作業場面に分けて一緒に検討することになった。
「先生、昔『レッドフラッグ』の覚え方を教えてくれましたよね。『ツナサンド』だったかな」
「ははは、惜しい!『ツナフィッシュ』でした。Trauma(外傷)、Unexplained weight loss(説明できない体重減少)、Neurologic finding(神経学的所見)、Age > 50 years(年齢が50歳以上)、Fever(発熱)、Intravenous drug use(静脈内麻薬使用)、Steroid use(ステロイド使用)、History of cancer(がんの既往)の頭文字の語呂合わせです」
「そうだった、そうだった。でも医者も語呂合わせが必要なんだね(笑)」
「新しいエビデンスもすぐに加わってくるし、今は語呂合わせで覚えるよりもすぐにタブレットやスマホで調べることの方が大事になってます」