慢性腰痛への移行のリスク評価と予防
腰痛は、痛みの持続が4週間未満である急性腰痛と、12週間(3カ月)以上続く慢性腰痛とに分類される(両者の間に亜急性腰痛を加える分類もあるがあまり実用的ではない)。
急性腰痛の多くは、積極的な治療を必要とせず自然に軽快するが、一方で、医師は慢性腰痛への進行率を過小評価することが多い。
米国の4つの地域にある77カ所のプライマリ・ケア診療所を利用する5000人超の急性腰痛患者を対象に慢性腰痛への移行を調べた最近のコホート臨床研究によると、6カ月時点での慢性腰痛への移行率は32%にも達していた。
急性腰痛から慢性腰痛への移行のリスクを評価し予防することが重要である。そのために、臨床研究によって有効性が実証された移行リスクを評価するためのスクリーニング・ツールがいくつか利用できる。PICKUP スコア、Örebro 筋骨格痛スクリーニング質問票[短縮版]、オンラインSTarT Back計算機などが、ウェブサイト上で公開されている。
前述のコホート研究では、オンラインSTarT Back計算機ツールの早期導入が、慢性腰痛への移行の減少、痛みの軽減、機能と生活の質の改善、全体的な治療満足度の向上と関連していた。
腰痛のマネジメント
特異的腰痛では、それぞれの疾患のマネジメントを専門的に進めることになる。非特異的腰痛では、さまざまな治療法が試され、おびただしい数の臨床研究も実施されているが、まだ標準的なアプローチが定まっているとは言い難い。ただ、痛みがあっても安静にしている必要はなく、むしろ積極的に運動をすることは推奨されている。
そして、薬剤を使用しない非薬物療法が第一選択の治療であり、これにはカウンセリング、運動療法、脊椎矯正、マッサージ、温熱療法、ドライ・ニードリング、鍼治療、経皮的電気神経刺激、理学療法などが含まれる。
行動療法もあり、レスポンデント療法(痛みに対する生理的反応を軽減するためのリラクゼーション法を含む)、オペラント療法(痛み行動の積極的な強化をやめ、運動などの健康的な行動を促進することを目的とする)、認知療法(痛みや障害に関する否定的な考えを特定して修正することに重点を置く)などの効果が示されている。
薬物療法は第二選択の治療である。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が最初に選択すべき薬剤であるが、その効果は中程度で、確実性の低いエビデンスによって裏付けられているのみだ。ベンゾジアゼピン、筋弛緩薬、抗うつ薬、コルチコステロイド、不眠薬、抗けいれん薬、大麻、アセトアミノフェン、または長期オピオイドの使用を推奨するエビデンスは決定的ではなく、潜在的なリスクがある。非特異的腰痛に対して、硬膜外グルココルチコイド注射や手術などの侵襲的治療が適応となることはまれである。