食の安全 常識・非常識

2011年12月28日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

 ところが日本は、この「リスクの大きさに応じて対処を変えて行く」ということが下手くそな国。相変わらず月齢にかかわらず全頭検査を行い、輸入規制も厳しいまま。「厳しければ、とにかくいい」という判断が消費者には強く、リスク管理のコストまで検討して緩める、ということがなにごとにつけ、できません。

米国の要求は既定路線

 こうした背景があり、米国は以前から「米国民は、国際基準に合わせた肉を食べている。だから、日本人も、国際基準に合わせろ」と迫ってきていた、というわけです。

 日本は以前持っていた「生後20カ月齢以下」という科学的根拠を失っており、交渉の土俵に乗らざるを得ません。TPPの議論の前に、これは既定路線だったというのが実情です。

 厚労省が12月19日、食品安全委員会に諮問した内容はまずは、食肉にする前の検査を生後20カ月齢超から30カ月齢超とした場合のリスク比較です。また、特定危険部位の一部についても月齢条件の緩和についてのリスク評価を求めています。国内の牛肉のほか米国、カナダ、フランス、オランダの4カ月の牛肉についても諮問しています。これらが終わった後にさらに、OIEの国際基準を踏まえて月齢条件のさらなる緩和についても諮問する予定です。

放射性物質とBSE
輸入制限をめぐって

 厚労省は、12月15日と16日、大阪、東京でこれらの内容などについての説明会を開きました。その中で、とても興味深い情報も参考として提供されました。原発事故後、中国やEUなどが放射性物質の汚染を理由に依然として、日本産の食品について厳しい輸入制限を行っていることを詳しく説明したのです。

 現在、東北産の食品であってもその多くが検出限界未満であるのが実情です。説明した厚労省輸入食品安全対策室長は、「輸入制限の廃止を求めると、『日本だって』とBSEを持ち出されかねない。だから、BSE対策について、最新の科学的知見に基づく再評価が必要です」と見直しの重要性を訴えました。

 これは、集まった大勢の食品事業者や消費者などへのメッセージではなく、もしかすると、本音のところでは米国産牛肉の輸入を抑えたい農水省や農水族議員、彼らを支持する一部の消費者団体への牽制であったのかもしれません。

 だれしもが、自分の利害を念頭に置いて発言をし、動いています。TPPの賛否の議論も当然、そうした思惑を視野に入れて受け止める必要があります。


<参考文献>
JA全・TPPってなに? 参加したらどんな問題があるの?
http://www.zenchu-ja.or.jp/tpp/whatstpp.html
農業協同組合新聞特集「どうなるの? 私たちのくらし【TPP-食の安全】
http://www.jacom.or.jp/tokusyu/2011/tokusyu110606-13712.php
日本消費者連盟・BSE対策の見直しを撤回すべきだ
http://nishoren.net/international_trade/tpp/1169
農水省・OIEコード改正について
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/090529.html
動物衛生研究所・世界の飼育牛におけるBSE発生頭数
http://www.niah.affrc.go.jp/disease/bse/count.html
厚労省・食品に関するリスクコミュニケーション~BSE対策の再評価に関する説明会
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001y7bk.html
厚労省から食品安全委員会に諮問されたBSEにかんするリスク評価
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001yl0m.html
食品安全委員会・我が国における牛海綿状脳症(BSE)の現状について
http://www.fsc.go.jp/sonota/bse_iinchodanwa_200731.pdf


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