2024年7月18日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年1月19日

 こうして要素を並べてみると、国民党に大きな追い風が吹いていたことが分かるのだが、これを前提として選挙結果を改めて見たとき、果たして本当に「台湾の人々の選択」といえるほど強い「対中融和路線」というものがそこに浮かび上がっているのだろうか。疑問なのである。

 事実、総統選は馬英九の勝利であったが、前回選挙と比べれば得票率は6ポイントのマイナス。立法院でも国民党は過半数を獲得したものの民進党が議席を増やすという結果だった。

 つまり、勝つには勝ったが何となく微妙な勝利だったという印象は否めないのである。

 では、この結果をやや強引だが民進党の善戦としてとらえたとき、「台湾の人々はやっぱり対中接近に警戒感を示した」と解釈できるのかといえば、それも違うだろう。

“対中政策”の住民投票ではない

 ここは整理が必要なのだが、今回、台湾は対中政策の住民投票をやったわけではなく、地域のリーダーを選んだということだ。だから当然のこと、国民党への投票は対中関係を安定させて対中ビジネスを強めることを意味したとしても、「ひょっとして将来、中国に呑み込まれることになってもかまわない」と考えたわけではないということだ。

 このズレを解くカギは、海外からの台湾選挙分析に「内政」という要素が欠け落ちていることだ。つまり対中政策も、自分の生活がどうなるのかという経済政策の一つの選択肢であり、経済的な距離を縮めることと「中国と一つになっても良い」というのは、「それはそれ、これはこれ」という話でしかない。

 そもそも民進党が掲げる「台湾独立」も、元をただせば台湾が中国から来た少数の外省人に支配されていることへの反発から生まれていて、また中国共産党にとっての本当の敵であって、中国の脅威をずっと喧伝してきた国民党がいま対中融和路線に突き進んでいるのも、民進党が与党であったときに、その違いを浮き立たせるために掲げた対外政策なのである。だからこそアメリカに頼って生きてきた国民党が、民進党の足を引っ張るためにアメリカからの武器購入予算に反対して、アメリカを激怒させるということが起きたのである。

国民党こそ中台統一の最大の抵抗勢力

 現状、勝利した馬政権の課題は、対中ビジネスで得た利益をどう分配するのかといった問題になるだろう。10%を超える経済成長を実現しながら、国民所得が年平均で数千円しか伸びなかったという歪みをどう修正するのかである。これは、民進党が今回の選挙で徹底的に争点とした民生問題だ。奇しくもそれは、世界各国のリーダーが直面する問題と同じなのだ。

 そして、対中政策においては皮肉なことに、国民党が統一に向けた最大の抵抗勢力にならざるを得ないはずだ。というのも、平和協定までは政治家個人の名誉(歴史的和解を成し遂げた人物として名を残す)と、台湾の人々の安全保障上のメリットがあるのだが、それ以上の対中接近は、すなわち台湾における政治実体にとって、自らの裁量の縮小しか意味しないからだ。これは(少し乱暴な例だが)中小企業の社長であっても、好き好んで大企業の一部になりたいとは思わないのと同じことだ。

 同様に、今回もし蔡英文が勝利していたとしても、対中政策が現実的に大きく変わることはなかったと私は考えている。なぜなら現在の国際関係は、リーダーがもつ裁量よりも現状がリーダーを枠にはめる要素の方が大きいからだ。

 例えば日本と中国と台湾の関係は、台湾が毎年対日貿易で約300億ドルの赤字で、中国が対台湾貿易で毎年約700億ドルの赤字であるが、この数字は台湾の対日貿易の赤字が膨らめば、自動的に対中貿易黒字も膨らむという関係だ。こうしてでき上がった構造は、台湾のトップが変わったからといって簡単に変わるものではないのである。


◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学准教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)


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