「我が社のカルチャーというのは、日本のカルチャーでは駄目なんです。世界の良いカルチャーを集めて我が社のカルチャーにしなければいけないのです」。ソニー創業者の一人、盛田昭夫さんがソニーで毎年行われる経営方針発表会「マネージメント会合」で発言された言葉である。
旧ソニー本社にある資料館に展示されている国産初のテープレコーダに録音されており、今もはっきりと聞くことができる。マネージメントそのものも、常に世界を見ていたことが分かる。
今の家電業界も、この原点に戻るべきだ。自分の立ち位置を忘れ、常に欧米企業に振り回されている。特にホーム機器の中心である、TVの状況を見ると、欧米のIT企業に振り回された結果、今は足元の定まらない諦めに近い状況のように思える。価格競争から脱皮を狙った大型TVを出したり、いまさら筆者が10年前に発売をした持ち運びのできる無線TVに戻ったりしている。
テレビやオーディオのホームプロダクツ、カメラ関連、モバイルなどのカテゴリーがあることを忘れて、ネットとコンテンツの融合という旗印の下、スマートTVなど米Apple、米GoogleといったIT企業の後追いだけを考えている。それぞれのカテゴリーの発展を考えないで、皆同じ機能が入ったプロダクツを考えている。
基本カテゴリーを見失うな
かつては利益が出なくて、重荷と言われた白物家電が、今は家電メーカーの中では唯一の高利益率を保っているように、ホームプロダクツで、アジア勢に真似できない商品を生み出すことができるはずだ。Appleでさえ、ここでは成功できていないところであり、それこそチャンスだ。
今でも企業の中には革新的なアイデアの芽はあるが、それを成長軌道に乗せられていない、あるいはそのような経営ができていないことが問題だ。世界のリーダーシップをとるカルチャーを作るのではなく、構造改革の名のもと、成長戦略を描けない経営の問題である。既存事業の利益を追求することだけが目的の中では、新規事業が育つことは不可能だ。既存事業とは別に、新規事業を進めるためには経営トップがその商品、アイデアの革新性が読めて、それにリソースを分け与えられるかどうかにかかっている。
ソニーの創業者である井深大さんは、テープレコーダやトリニトロンテレビ、盛田さんはウォークマン、大賀典雄さんはCDなどそれぞれ革新性を見抜き、短期的な利益に左右されず、トップ自ら執念を持って世に出してきた。
新規事業を実現するためのいくつかの要素の中で、短期的な業績に左右されないで諦めない継続性や、必要な人材を確保するといったことが重要だが、これはトップだけができる。そこでは、今ある基本カテゴリーを見失ってはならない。
10月1日よりBS放送が12チャンネルから24チャンネルと倍になったが、テレビ離れが起きている中、チャンネル数だけが増えてもTVは売れない。こういうときこそ、成長戦略を目指して新規事業を、ネットも含めて放送局などコンテンツ側と一緒に考えることも有効ではないかと思う。
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