2015年に始まったイエメン内戦は、クーデターを起こしたホーシー派をイランが支持し、クーデターを起こされた側のハディ暫定大統領(こちらが国際的に承認されている)をサウジアラビア主導の連合軍が支援する、というのが大まかな構図である。サウジとアラブ首長国連邦(UAE)は、反ホーシー派ということで協力関係にあるということになっている。
しかし、イエメンにおける両国の目的には相違がくすぶってきた。8月7日にイエメンの事実上の首都アデンで、UAEの支援する「南部暫定評議会」と国際的に承認されたハディ大統領の政府の間で戦闘が起きた。これは、UAEのサウジ離れを象徴する事件であった。UAEは、イエメン南部の地域の民兵を訓練、支持し、「アラビア半島のアルカイダ」に対する反テロ作戦を進め、南部の経済開発を支援してきたが、「南部暫定評議会」はこれらの作戦のパートナーであった。
今や、UAEがサウジの中東政策から距離を置こうと努力しているのは明らかである。
イエメンにおけるサウジの最優先事項はホーシー派に対し南部国境を護ることであったが、UAEは紛争での役割を通じ、世界貿易にとって重要なアフリカの角とバブ・エル・マンデブ海峡への軍事的、経済的アクセスを拡大しようとしてきた。サウジもUAEもイランを深刻な脅威と考えているが、UAEのほうが地理的にイランに近いし、イランとの通商関係が深いのでイランとの対立の影響を受けやすいため、イランとの外交関係を続けるなど、現実的な政策を取っている。それに加え、UAEは、イエメンにおける人道上の危機について非難されることに辟易し、イエメン内戦から手を引こうとしている。
これに対し、サウジにとってはイエメンは同国の裏庭であり、サウジとしては、そこでイランの影響下にあるホーシー派が優位に立つことは何としても避けたいと考えている。サウジにとってイランは中東での覇権を争う宿敵である。つまり、UAEのサウジ離れは、単にイエメン内戦だけではなく、対イラン政策における相違というもっと大きな文脈で見る必要がある。
サウジから距離を置こうとするUAEの動きは、湾岸におけるサウジの影響力の低下を反映している面がある。かつてサウジは「湾岸協力評議会」を通じ、湾岸の覇権国であった。それが最近は、カタールの離反、UAEの動き、イエメン情勢の泥沼化、イランの影響力の増大などで、サウジの影響力は弱まっている。
サウジとUAEの地域戦略の分裂は、米国と両国との関係がトランプ政権の中東政策の要であるから、米国にも重要な影響を与える。イランとの高くつく戦争を回避しようとするUAEの決定は、トランプ政権のイラン戦略を複雑なものにするだろう。トランプ政権はサウジ、特にムハンマド皇太子との関係を、無条件と言っていいほど重視しているが、このあたりでサウジの置かれた状況をよく吟味し、サウジ政策をバランスのとれたものにシフトする必要に迫られていると思われる。
イエメン自体については、関係国はそろそろ内戦の終息を考えるべき時期に来ている。サウジには、軍事力によりホーシー派を屈服できないという厳然たる認めるべき事実がある。そうすると、政治的解決を求める他はないということになる。政治的解決には2つの前提がある。一つは、サウジ政府にとっては「清水の舞台から飛び降りる」決断かもしれないが、来るイエメン中央政府にホーシー派の参加を認めることである。第二は、イエメン南部にある程度の自治を認めることである。イエメンでは南北に分かれていた時代のほうが統一の時代よりはるかに長く、南部では今日でも分離独立を望む世論が強いという。このような南部の意向を反映して初めて、新しい中央政府は安定するであろう。
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