2024年12月22日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年4月9日

中国政府作成のテロリスト・リスト

 先週、中国政府は独自のテロリスト・リストに6名のウイグル人を追加し更新した。「独自の」と書いたのにはわけがある。実は、冒頭の世界ウイグル会議の事務総長ドルクン・エイサ氏は、中国政府のテロリスト・リストに名前の載っている人物なのだが、国際社会にその認識が共有されているわけではない。氏は亡命先のドイツの国民としてふつうの生活を送り、他のヨーロッパ諸国へ頻繁に出かけてはウイグル問題を訴える活動を行なっており、日本にもすでに数回入国して同じ活動をしている。

 「中国政府によれば、私はテロリスト・リストの3番目に名前を挙げるほど危険な人物のようですが、実は生まれてこの方一度も、銃器に触れたことがないのです」

 筆者の取材に対し、氏は苦笑交じりにいう。ドルクン・エイサ氏はドイツに亡命する前、トルコに暮らし、アンカラ大学の政治学の修士課程に学んだ。にもかかわらず、近年、トルコ政府は氏の入国を拒否している。それはなぜか?

 近年、中国政府は、ウイグル人封じ込めと新疆ウイグル自治区への実効支配強化のために、ウイグル地域の「漢化」を強引に推し進めてきた。おもには、ウイグル人を他の地域へ強制的に移住させ、漢人をウイグル地域へ移住させる政策であるが、その一方で、ウイグル地域と同じトルコ系民族としてつながる隣国のキルギス共和国、ウズベキスタン、カザフスタンなどの国々に対し、手厚い経済援助を行なってきてもいる。

 これは、一義的には、中央アジア諸国がもつ資源を有利に手に入れるためであるが、同時に、民族的につながるウイグル人への後方支援を絶たせ、彼らの孤立化を図る狙いも大きい。中央アジアに留まらず、中国はトルコに対しても通商関係を強化することで、ウイグル人組織への支援を行わせないよう手を打ってきた。さらに、民族的つながりは薄いが、国境を接するパキスタンにも、経済的、軍事的な支援を積極的に行なうことと引き換えに、パキスタン領内でのウイグル人の活動を封じ込めるよう圧力を強めてきた。

ホータン事件の衝撃
食い違う発表内容

 内では移住政策を進め、外に対しては経済力を武器に関係諸国への連携を強める。中国政府が、内外から着々とウイグル封じ込めを進めているかのように見えていた中で起きたのが、昨年7月のホータンでの派出所襲撃事件である。

 一報を読んだ際、まず「ホータン」という地名に引っかかり、あらためて地図を見た。ホータンは、新疆ウイグル自治区の南西部にあり、今日も中国、インド、パキスタンが国境線を巡って係争しているアクサイチンという地方から百数十キロとひじょうに近い。まさに辺境である。この立地が幸いして、漢人の入植は他の地域ほどは進んでおらず、住民の9割以上がウイグル人とのことである。であれば、民族間の対立感情は希薄なはずだが、なぜ、そのような地で死傷者を出すほどの衝突が起きたのか?

 「ホータンの人というのは、ひじょうに信念が強く、反骨精神が強いのです。そのため清朝時代は満人の支配に対して、民国時代にも漢人への抵抗運動が起こった。抵抗の歴史をもつ土地柄といえます」


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