とは、在日ウイグル人の弁だ。玉石の産地として知られるホータンには、古くは、ホータン王国があり、7世紀にはここを吐蕃(現在のチベット)が支配、さらに則天武后の唐が奪い返したという歴史もある。11世にイスラム化した後も、さまざまな攻防の舞台となった地であり、「何かが起こるところ」として知られる地でもある。
先述したように、そのホータンで起きた事件の報道に際しては、例によって、中国側とウイグル人側との発表内容には大きな隔たりがあった。世界ウイグル会議側は、ウイグル人少なくとも20人が命を落としたと発表したが、伝わってくる情報の食い違いには、死者数以外にも重要な点がある。
中国メディアは、「襲撃犯らは、派出所にジハード(聖戦)の旗を立てた」として、あたかも「イスラム過激派によるテロ」であるかのようなイメージを被せようとした。ところが、在外ウイグル人らによると、グループが派出所の屋上に立てたのは、スカイブルーに三日月と星が描かれた「東トルキスタン国旗」であった、という。つまりこの一件は、「ウイグル人はけっして民族自決をあきらめない」という強い意思の表明だったというのだ。この件、遠く離れた北京の政府にも相当の衝撃を与えたであろうことは間違いない。
印パにミャンマー 変わる周辺
内外への策怠りなく見えていた中国政府の「上手の手から水が漏れた」のか? 内では、ホータンの事件後も、カシュガル等で抵抗が相次ぎ、外においても最近、中国にとって喜ばしくない変化がさまざま起きている。その一つが昨日報道された、インド・パキスタンの和解であろう。印パの和解が今後スムーズに進むか否かは不明だが、それでも、中国にとって長年の友であり、とくに近年、米国との関係悪化から軍事的つながりを強めてきたパキスタンが、共通の敵であったインドと関係修復を表明したことが面白いはずもない。
少し前には、やはり中国一辺倒に依存してきたミャンマーが、米国との関係を修復した件もあったが、これはチベットとの関係において、中国にとり、面白くない事態であろう。とはいえ、中国政府も面白くない事態を座視しているわけではない。
2月には、習近平国家副主席がトルコを訪問、このたび返礼的にトルコのエルドアン首相が中国を訪問する際、新疆ウイグル自治区へと招き入れた。ウイグル人と民族的に近いトルコからの投資を歓迎し、新疆のさらなる発展を、というキャンペーンである。エルドアン首相が目下のところ、同じトルコ系の兄弟姉妹らの人権問題より、自国の経済発展のほうにいたく関心があることはいうまでもない。
問われる日本の真価
国際情勢が目まぐるしく変化する中、つねに後手にまわっている感の強いわが国であるが、そんな日本に来月、在外ウイグル人の活動家らが集結する。世界ウイグル会議の第4回代表大会が東京で開催されるのだ。中国はすでに、今般のチベット亡命政府の首相訪日の件と合わせて、強烈な不満を表明している。
「ウイグル人の人権状況、民族差別は近年、悪くなる一方です。その改善のために、アジアの大国であり、民主国家である日本の皆さんのお力をお借りしたい」
と、ドルクン・エイサ氏は強調する。ここでは詳述しないが、たしかに今日の新疆ウイグル自治区でのウイグル人の置かれている状況の厳しさ、中国側からの弾圧の烈しさは筆舌に尽くしがたいものがある。
中国との経済的な結びつきが強いことにかけては他国に引けを取らないわが国だが、果たして私たちは、その現状に引きずれられるだけでよいのか? 自由、人権、民主主義といった、全人類に共通して保障されるべき価値を重んじる国としての日本の真価が、今後試されることとなるのである。
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・1ページ目最終段落下から3行目
「アメリカ政府は、自国内に住む無実のウイグル人を~」を「アメリカ政府は、無実のウイグル人を~」と修正致しました。
・3ページ目7段落
「そんな日本で来月、在外ウイグル人の活動からが集結する。世界ウイグル会議の第5回大会を東京で開催されるのだ。」は、「そんな日本に来月、在外ウイグル人の活動家らが集結する。世界ウイグル会議の第4回代表大会が東京で開催されるのだ。」の間違いでした。お詫びして訂正申し上げます。両該当箇所は修正済みです。 〔2012年4月25日9時37分〕
◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜
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