Foreign Affairs3月22日付で、M.Taylor Fravel米MIT助教授が「南シナ海異状なし」と題し、また米外交問題評議会のMicah Zenkoと米Century FoundationのMichael A.Cohenが「今そこにある安全」と題し、いずれも中国に好意的な論を展開しています。
すなわち、Fravelは、2009年以来、中国は南シナ海問題で強硬姿勢を取って来たが、昨年夏頃からそれがやり過ぎだということに気付いたようで、言動がとみに穏健化してきた。ASEAN諸国、特にベトナムとの関係改善にも努めるようになってきた。
これがいつまで続くかは分からないが、この新しいアプローチは戦略的に正しく、中国外交の変化を示すものとして持続するかもしれない。なぜなら、中国指導部は、秋の権力継承を控えて安定した国際環境を望んでおり、その後も、国内問題に集中するために国際的危機は避けたいだろうからだ、と言っています。
またZenkoらは、米国防費削減によって米国の安全が脅かされると懸念する声が高まっているが、それは全く間違いで、現在米国が置かれている国際環境は極めて安全だ。
確かに、近い将来、中国の地域的役割は増すだろうが、それが米国の利益を脅かすのは、米国が東アジアを支配しようとし、この地域における中国の正統な利害関係を理解しない場合だけだ、と言っています。
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Fravelの論文は、現在中国が平和姿勢として誇示したいことをそのまま述べていますが、その分析は正しい可能性もあります。中越間の頻繁な往来や、ASEANの会議への中国の参加等、論文が挙げる論拠は実質を伴わない形だけのものとも言えますが、挑発的な行動があまり目立たなくなったことは事実です。
元々、台湾と違い、南シナ海に関しては中国が柔軟姿勢をとる可能性があった上に、2009-2010年の中国の度を超えた強圧的態度は、中国にとって何の得にもならないものだったので、常識的にはこれが抑えられることは予期できました。
さらに、冷戦時代にソ連が平和攻勢によって西側の結束を緩めようとしたように、中国が明らかに何の利益も無い強面はやめて、平和攻勢に転じたとも考えられます。
従って、Fravelの論文は、主張は一方的であるにしても、一面の真理を語っていると評価してよいように思われます。しかしZenkoの論文は、中国の歓心を買う十分な効果があるものだ、と言えるでしょう。