ふつうに考えれば、過去に数回入国を許し、日本領内で何ら問題を起こしてもいない一人のドイツ国民を突如入国拒否にすることなどあるはずもない。しかし、2010年9月の「尖閣事件」の際の日本政府の異常とも思える「弱腰ぶり」など見れば、関係者が不安に駆られるのも無理もない。
幸運にもこの不安は的中せず、氏はすんなりと入国できた。さらに中国側の「圧力コメント」の直後、日本側からは、世界ウイグル会議代表者大会の出席者について「査証申請があれば粛々と手続きを行なう」という、そもそも当然の、しかし、あの「弱腰ぶり」を見せた現政権にしては上出来なコメントも聞こえてきたのである。
なぜ、日本で開催するのか?
筆者の取材では、この件について閣内の複数から、「中国側の圧力など受けてはならない」との声が聞かれた。現在の閣内には、過去にドルクン・エイサ氏ら世界ウイグル会議の幹部と面会した人が複数いる。よきに考えれば、ウイグル問題に理解ある政治家が閣内にいたことが幸いしたかとも思われるが、そう単純な話ではなかろう。
日本政府が、中国側の「圧力」を意に介さず、世界中のウイグル人の活動家らへのビザ発給を行なう、とのニュースが伝わると、Facebook上では世界の多くのウイグル人らから喜びの声が書き込まれた。日本を称賛する内容のものも少なくなかった。しかし、筆者はいま一つ釈然としないものを感じていたのである。
前回も述べたが、世界の例にもれず、日本でのウイグル問題の認知度はまだまだ低い。チベットと比べても雲泥の差がある。それは永田町とて同じで、ウイグル問題を詳しく知る日本の政治家は皆無に近いといって過言でない。
過去に、世界ウイグル会議の幹部らと接点のあった閣内の人々も、あるいは今般、設立が発表された「日本ウイグル国会議員連盟」のメンバーとして集まった12人の議員らも、数人を除けば、ウイグル問題にとくに詳しい、との印象はない。むろん、ウイグル人に対し酷い人権弾圧が行なわれているということは全員が承知しているだろうが、たとえば、このうちの何人が、ドルクン・エイサ氏が09年に韓国で拘束された件を関知していただろうか?
ウイグル人は日本が好き
そうした状況ではあるが、今般、日本政府は“毅然と”ウイグル人活動家らにビザを出すといい、保守系といわれる野党の国会議員らは「ウイグル議連」を立ち上げるに至った。 果たして日本の政治家らは「目覚めた」といえるのであろうか?
ドルクン・エイサ氏は先月、日本の複数のメディアから「日本で代表者大会を開催する理由」を聞かれ、日本が「アジアの大国であり、自由で民主的な体制であり、中国に対し影響力をもつ国である」ことを挙げ、そんな日本の人々にもっとウイグル問題を知ってほしいためでもあると答えていた。筆者の取材に対しては、加えて、「ウイグル人は日本が好きなのです。日本に来たい、あなたたち日本人に会いたいという気持ちが強いのですよ。それも大きな理由の一つ」と、泣かせることをも言った。偽らざる思いではあろうが、理由はそうした「ウイグル人の思い」のほかにもあるのでは、と思える。
米国の対中戦略やいかに?
あくまで筆者の憶測だが、今般の世界ウイグル会議代表者大会の日本開催には、米国の意向が色濃く反映されているのではなかろうか。そう考えると万事納得がいく。米国との「コンセンサス」あればこそ、日本政府は、中国側の圧力をものともせず、“毅然と”ウイグル人活動家125名の入国を許すと宣言したのではないか?