某国営航空スタッフの呆れた対応
6月5日、出発当日午前9時前にJRを乗り継いで成田空港到着。航空チケットの往路ルートは成田~モスクワ~ミラノ。機内預け入れ荷物は自転車と大型バッグの二つ。自転車は追加料金100ユーロを払って、航空会社のカウンターではなく超過サイズ・超過重量荷物カウンターまで運んで預け入れる。
新米らしきスタッフは手続きが分からず手間取った。そこにマネージャー然とした制服をピシッと着こなした女性が割って入り、いきなり輪行バッグの端を無造作に掴んで台車に載せようとした。オジサンが「この輪行バッグはナイロン製で破れやすいのでホルダーの部分を持って下さい」と注意すると、「それならご自分でどうぞ」と信じがたい一言。
大型荷物カウンターで荷札(baggage tag)が取れそうになっていたので注意を促したが女はガン無視。さらに促すと「お客様の自転車はデリケートですので、私共では責任を持ちかねます」と強烈な嫌味。
荷札を正しいカ所に貼らないとセンサーに反応せず間違って送られるので気になったが、これ以上関わると血圧が上がるだけ損だと思い、出発フロアに向かった。
予感的中、自転車は行方不明(missing)
6月5日午後7時、モスクワ経由でミラノ国際空港に到着。到着フロアでしばらく待つと大型バッグがベルトコンベアーに現れた。しかしいくら待っても自転車は出て来なかった。
荷物トラブル受付カウンターへ行くと長蛇の行列。イタリア的仕事ぶりで延々と待たされる。午後11時過ぎになりやっとクレーム登録完了。「自転車の所在は現在不明。明日9時過ぎに出直して来い」とのご託宣。
6月6日、空港のベンチで一夜を明かし、9時から何度も荷物カウンターに出向いて、やっと『モスクワから11時到着便で自転車が運ばれてくる』との吉報。
こうして午後1時にやっとミラノ・マルペンサ国際空港を出立。一路ベネチアを目指して出発進行。
修道女の温かいオモテナシ
午後5時頃、幹線道路を離れてキャンプサイトを探す。住宅地の裏手に教会があった。
一人の修道女にテント設営の諾否を尋ねると、5分ほどして袋を下げて戻ってきた。ジュース、ビスケット、チョコレートなどが入っていた。さらに数分後、別の修道女がミルクティーを持ってきた。
英語が通じないので「感謝至極です」(Grazie mille)など知っている限りの片言イタリア語でお礼を述べた。某国営航空の無礼な女の一件で人間不信になりかけていたが、修道女たちのオモテナシで神の存在を信じることができた。
深夜の怪、本場イタリアの自転車泥棒
6月7日、イタリア北部ロンバルディア平原の幹線道路をひたすら東進。途中で運河沿いの自転車専用道を走る。アルプスの雪解け水をミラノに運ぶ灌漑用水だ。
夕刻Treviglio(トレビッリョ)という田舎町の公園にテントを設営。 9時を過ぎて寝ようと準備をしていたら、30代半ばの中国男性がやってきた。単身でイタリアに出稼ぎに来て公園の近くで理髪店をしている。アパートに戻ってコーラ、煎餅、お菓子などを抱えきれないほど土産を持って来た。
中国人が帰って10時半就寝。自転車はテントの真後ろの鉄のベンチに三つのワイヤーロックで固定。11時過ぎにパトカーの警官が来て安否確認して帰った。
そして午前3時小用を足すためにテントから這い出すと、目が点に! 自転車がものの見事に消えていた。
三つのワイヤーロックはきれいに解錠され、ベンチ脇に捨てられていた。テントから1メートルも離れていないのに全く物音に気付かなかった。犯人の完璧な仕業にむしろ“あっぱれ”と感服。
往年の名画“自転車泥棒”の舞台はイタリアだったことを思い出した。
警察で犯罪被害証明書作成
公園から数百メートルの警察署(commissariato)に出頭。署内は土曜日の半ドンでノンビリと明るい雰囲気。女性も含めて若くてお洒落な警官が多い。
9時過ぎにマウロと名乗る30代半ばの警官が現れ、犯罪被害証明書の作成開始。オジサンの身元確認から始まり盗難事件の事実関係を一つ一つ確認。マウロは“まあまあ”の英語を話したので安堵。聴取内容をパソコンに入力完了後に画面を見ながら確認。
さらに印刷されたイタリア語・英語併記のプリントをチェック。日付や時刻や固有名詞は特に重要なのでイタリア語と英語で齟齬がないかダブルチェック。警察署印を押した正式書類正副コピーを受領したのは10時半。
書類手続きが終わるとマウロはリラックスした様子で今後の予定を聞いてきた。「代わりの自転車を購入するまで昨夜の公園でテント泊する予定だ」と答えると、「念のためにパトロール隊が巡回するときは公園に立ち寄って安否確認する」と頼もしい。
さらにマウロは欧州で長距離を走るにはママチャリ程度ではダメで、それなりの自転車が必要と強調。警察署には不要の自転車が置いてあるので自分で好きな自転車を選んでくれと有難いオファー。
自転車置き場には十数台の自転車が並んでいた。残念なことに折り畳み自転車(folding bike)はなかった。山脈越えや悪天候などで田舎の路線バスや乗合自動車を利用せざるを得ない区間があるので折り畳み自転車(ミニベロ)が必須だった。
マウロは驚いたことに自分のマウンテンバイクをオファー。写真で見せてもらったが車体がやや大きくて断念。
それからマウロは近くの小さな自転車屋にオジサンを連れて行き、店のオヤジに趣旨を説明。中古の折り畳み自転車が十台くらい倉庫に無造作に積んであったがチャチなものしかない。
そのうちオヤジは「今日は半ドンだ」とそそくさ店じまい。午後3軒の自転車屋を歩いて回ったがまともな自転車はなかった。