最近、人民解放軍が「五龍」など複数の部局をまとめ「国家海岸警備隊」を創設することを提案した。人民解放軍の中でも強硬派として知られる羅援少将によるこの提案は、現在国土資源部傘下の国家海洋局を省に格上げし、その下に海岸警備隊を組織して、領海、排他的経済水域、大陸棚における海洋権益の保護を強化しようというもので、国家海岸警備隊を準軍事部隊と定めて有事には海軍の指揮下に置くとされている。明らかに、軍が主導する形で海洋権益を保護する体制を整えるための提案である。
中国政府関係者によれば、国務院が年内を目処に海洋戦略を策定するらしい。その過程で「五龍」を統合する動きにも一層拍車がかかるだろう。だが、「五龍」を統合する試みはこれまで何度も失敗してきた。その最大の原因は、官僚の縄張り争いである。どの組織を中心に統合するかという点も問題である。国際的にコーストガードとして認められている海警を中心とするのか、海洋権益の保護という観点から海監が所属する国家海洋局を中心とするのか、中国国内でも意見は分かれている。このため、統合は容易ではないだろう。
日本は「海監」と「漁政」に注目を
日本との関係では、海監と漁政に注目する必要がある。2010年9月の尖閣沖漁船衝突以降、漁政の漁業監視船が尖閣沖に出没し、領海を侵犯することもあった。一方、海監は2000年以降東シナ海に海洋調査船を出していたが、今年になって日本政府が尖閣周辺の無人島に命名作業を行っていることがわかると海洋監視船を送り込み、海上保安庁の調査活動を妨害し、尖閣の領海も侵犯した。海監は日本による尖閣の実効支配を崩すことを明言もしている。東シナ海、とりわけ尖閣沖で日中の不測の事態を避けるためには、中国海軍に加えて、海監と漁政との信頼醸成が不可欠である。
信頼醸成に必要な「ホットラインの設置」
冒頭に述べた日中高級事務レベル海洋協議は、「五龍」も参加したという意味で画期的である。この協議を定例化することも確認され、2回目が今年後半に開かれる予定である。問題は、日本では「五龍」についてほとんど研究がなされていないことである。防衛研究所の「中国安全保障レポート2011」が一部取り上げてはいるが、独自の研究に基づいたものではない。相手を研究せずに、信頼を醸成することなどできない。たとえば、海監は青島にある中国海軍大学と関係が深いが、この大学には日本研究センターがある。ここを通じて海監に関する理解を深めるなど、独自の努力が必要であろう。
信頼醸成措置としては、ホットラインの設置が第一歩となろう。海警と海保にはホットラインがすでにあり、実際に協力関係が維持されている。しかし、日中間の不測の事態を避けるためには、海保と海監、そして海保と漁政の間にホットラインが不可欠である。その上で日中協議を制度化・定例化し、中途で立ち消えとならないように双方が努力をする必要がある。
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