2024年11月22日(金)

安保激変

2012年5月22日

 海監は、領海や排他的経済水域(EEZ)の海洋権益の保護を担う。人員は8000人ほどだが船舶の数は多く、250隻程度の監視船を保有し、今後数年間で監視船をさらに大型船を中心に36隻増強する計画もある。航空機の保有数は5つの中で最も多い。2011年7月には夜間運用が可能なヘリを搭載する4000トン級の監視船が東シナ海に配備された。海洋調査も海監の任務で、南シナ海や、東シナ海など日本の周辺海域でも頻繁に海洋調査を行っている。

海難救助に力を入れる「海巡」
貿易管理の「海関」

 海巡は、2万人規模と5つの中では最大の組織で、港湾での外国船舶の監督や海難事故の捜査、海上交通の管制、航行支援設備(灯台やブイなど)の維持、捜索救難などを任務とする。海巡は小型艇を中心に800隻規模の船を保有し、6000トン級の巡視船を含む大型船の配備も進めているが、船自体は武装されていないようである。ヘリの運用も行われているが、乗組員の訓練に課題が残っている。海巡は海難救助に力を入れており、その救援能力を飛躍的に高めているようである。

 海関は、中国の経済成長を支える貿易を水際で管理している。税関業務だけでなく、外国船舶の監督や密輸対策を任務としている。人員は2000人程度だが、密輸船取締のために200以上の高速艇を保有しているとみられる。海関はとりわけ麻薬の密輸阻止に力をいれており、海警と協力している。

「協調」せず、互いに「競合」する「五龍」

 先に触れた海警の報告書は、「五龍」が協調せず、互いに管轄権や影響力、予算をめぐって競い合っていることが中国の海洋法執行能力の低さにつながっている点を指摘している。一方、ある事例に複数の機関が関わるため一貫性を欠き、結果として対処が遅れるという事態も起こっているようである。このように「五龍」の相互関係は協調よりも競合と表現できそうである。さらにやっかいなことに、「五龍」の中央よりも地方の出先機関の方が権限が強いといわれ、実態の把握をより困難にしている。

 それでは、「五龍」と人民解放軍、特に海軍との関係はどうなのだろうか。中国海軍関係者の話を総合すると、「五龍」と海軍の間で政策の調整が行われることほとんどないらしい。また、海軍の中には、強硬な姿勢を取る海監と漁政が周辺諸国と摩擦を起こし、事態がエスカレートして海軍同士の衝突につながることを懸念する声もあるという。

高まる「五龍」統合の声
官僚の縄張り争いで失敗続き

 このため、中国国内には海洋権益の効率的な確保に向けてこれら「五龍」の統合を求める声が高まりつつある。その背景の1つに、日本の海上保安庁が果たしている安全保障上の役割に近年世界が注目している事実がある。海上保安庁は2001年に北朝鮮の不審船と銃撃戦を繰り広げ、尖閣諸島も常時パトロールしている。東南アジア諸国の海上保安機関の能力構築などを通じて、国際的な影響力も強まっている。とりわけ、中国の関係者の間では、国際的な危機において、海軍よりもコーストガードの方が周辺国を過剰に刺激せずに事態を収拾させやすいことに注目が集まっている。


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