2022年8月10日(水)

WEDGE REPORT

2020年9月30日

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小山 堅 (こやま・けん)

日本エネルギー経済研究所 常務理事・首席研究員

1986年早大大学院経済学研究科修士、エネルギー経済研究所入所。英国ダンディー大学博士課程修了(PhD取得)。2020年より専務理事。研究分野は国際石油・エネルギー情勢、エネルギー安全保障問題。

欧州需要の「しわ取り」

 今後の値動き次第では、ロシアの協調減産に対する姿勢が再び市場の注目を集めることになるかもしれない。減産が続く中、原油価格に徐々に上向きの力が作用するようになると、再びシェールオイル増産が始まり、ロシアはそれを牽制する必要性を感じる可能性がある。他方で、ロシアが協調減産の協力に慎重な姿勢を示せば、その時のコロナ禍の情勢・世界経済との関係で、原油価格押し下げ要因になりかねない。ロシアとしては自らの選択が市場を左右してしまう可能性も踏まえつつ、戦略的な決定を行う必要がある。

 この点は、国際石油市場だけでなく、天然ガス・LNG市場でも同様である。今年の世界の天然ガス・LNG需要はコロナ禍の影響で激減し、市場は供給過剰で価格が大幅に低下した。欧米のガス価格も同様である。

 価格低下に対応して「市場の反応」が発生したことは原油市場での状況と同様だが、一つ決定的に違う点がある。天然ガス・LNG市場には、OPECプラスのような産出国が戦略的に協調減産を行うメカニズムが存在しない。価格低下によって生産コストの高い供給力が採算割れになり、経済的な圧力で供給が低下するメカニズムでのみ、調整が行われる。

 供給者側も最大の努力を払いコスト削減に努め、かつ自ら可能な範囲で顧客の要請に合わせて供給量を柔軟に調整する試みも行われるが、「OPECプラス」の存在が無い、という特徴は重要である。

 その中で、実はロシアが注目すべき役割を担っているように見える。ロシアの天然ガス・LNG輸出はその多くが欧州向けだが、欧州のガス需給を見ると興味深い事実が浮かび上がる。今年1~5月期の経済協力開発機構(OECD)欧州のガス需要はコロナ禍の影響で、前年同月比7%のマイナスであり、域外からのガス輸入は全体で同9%の減少となったが、実はLNG輸入は同11%の増加であった。

 世界のLNG供給過剰を欧州市場が吸収するような形で輸入を増やしたのだが、その反面、欧州のパイプラインガス輸入は同26%の大幅マイナス、うちロシア産ガスの輸入が同23%減となり、需給の「しわ取り」をロシアが担う形になっている。

 もしロシアが、欧州へのLNG輸入の拡大を阻止しようと考えたならば、自らのパイプラインガス輸出を減らさず、市場シェア確保のための「価格競争」に打って出た可能性もある。欧州向けのロシア産パイプラインガスの競争力は非常に高く、もし、価格戦争を覚悟すれば、低生産コストを生かして、それに踏み切ったかもしれない。

 しかし、現実にはロシアはその選択をせず、ガス輸出が大きく低下する現状に甘んじている、と見ることもできる。これは、ロシアの戦略的な判断に基づいた決定によるものとも考えられるが、仮にその判断に大きな変化があれば、欧州のガス需給・価格や、世界のLNG需給と価格に劇的な変化がもたらされる可能性がある。こうした面でも今後のロシアの動向からは目が離せない。

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