大学を卒業後、建設会社に勤めていて、本州と四国今治を結ぶ「しまなみ海道」の橋の建設に携わった。その時、今治に住んだことがあったが、まさか今治に永住することになるとは夢にも思わなかった、という。というのは、もともとは北海道出身。東京勤務に戻った後、たまたま知り合った女性が今治出身で、結婚することになったが、その段になって後継ぎがいない老舗タオルメーカーの令嬢であることを知ったという。計らずも婿養子として社長を引き受けることになった。
今でこそ、今治タオルはブランドの再構築に成功して底入れしているが、当時はまさにどん底。楠橋社長は芸能人のイベント用のタオルなど特注品に力を入れるなど、新風を吹き込んだ。社員の制服も一新、反対を押し切ってデニムの上下に変えたが、これも少しでも若い人たちを引き寄せたいという楠橋社長のアイデアだった。もちろん、今の仕事にやりがいを感じている。
「cocoroe」を手にする子どもたちの人生にも、どんな「巡り合わせ」が待っているか分からない。世の中にはいろんな仕事があり、そこでいきいきと働く人たちがいることを早いうちに知れば、そこに子どもたちの可能性はさらに広がる。地元の企業に目を向ける若者が増えれば、地元の経済活性化の一翼を担う人材になっていくかもしれない。
そんな「cocoroe」の思いが、ここへきて、大きく飛躍しようとしている。日本地域情報振興協会が主催する「日本タウン誌・フリーペーパー大賞」で、17年に第1回内閣府地方創生推進事務局長賞を受賞したのだ。それを機に同様の取り組みが広がり、埼玉版と東京版も発行にこぎつけた。
人生を大きく変えることになるかもしれないフリーペーパーは、今後も全国へと広がっていくことだろう。
写真=生津勝隆 Masataka Namazu
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