経済ジャーナリストの活躍
報道機関の科学部はおおむね10~20人ぐらいの記者やスタッフで構成されているイメージだが、ノーベル賞シーズンになると総がかりで受賞しそうな候補者をピックアップして準備するという。新聞社によっては「号外」を出すところもあるので、何種類ものパターンの原稿を用意する社もあるそうだ。
しかし最近は科学部以外でもノーベル賞に関係するジャーナリストが多くなっている。その端的な例が経済ジャーナリストだ。経済学賞の担当のほか、iPS細胞研究のような事例では、今後、製薬会社などの新薬開発にも大きく関係してくるので、多くの新聞の経済面で製薬ビジネスへの影響や関係企業の期待を取材してサイド原稿を書いていた。また、今年の平和賞は欧州連合(EU)の受賞が決まったので、外信部と経済部が協力してEUの政治統合の歴史や欧州財政危機などを総合してEU受賞の意味合いについて現地レポートを展開するテレビなども多かった。
今年は文学賞の有力候補として村上春樹氏の名前が挙がっていたので、文化部が入念な準備をしていたメディアも多かったはずだ。また経済学賞でも日本人研究者の受賞がいずれあるかもしれないので、そのときは経済ジャーナリストの出番となる。
科学報道の在り方に課題を投げかけた誤報
山中教授のノーベル賞の朗報が届く一方で、読売新聞などは森口尚史氏のiPSがらみの別の報道で誤報し、その後訂正・謝罪するという異例の事態も起こった。不十分な確認作業などが原因だが、冷静に考えればあり得ないミスだと思う。しかし、こんな誤報が起きてしまうほど、加熱する報道合戦の中で、「どうにかして一歩先をゆきたい」「頭ひとつ抜け出したい」という行き過ぎた思いがあったのだろう。スクープを狙うが故に、あまりにもずさんな取材、チェック体制が許されてしまったことは、大いに反省すべきことである。
この誤報の一件は、ノーベルウイークが続く中で、科学報道の在り方に大きな課題を投げかけた。事象がどんどん専門化してゆく中で、報道する側も深い知識やバランスのとれた判断が求められる。これには不断の勉強や綿密な取材が不可欠であり、悪意をもった情報提供の真贋を見分けるセンスや判断力もしっかり持たなくてはならない。これは科学報道に限ったことでなく、経済報道にも共通することだ。報道に携わる者として事実関係の確認の重要性を改めて痛感させられた1週間でもあった。
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。