事業仕分けの結果、思わぬかたちで社会から関心を集めることになったのが、科学分野の基礎研究だ。「知的好奇心を満たす」という根源的な目的の他にも、「イノベーションの汎用性を保つ」という意義がある。基礎研究を担う大学には「選択と集中」の波が押し寄せている。さらに、新たな変革も迫っている。
10日、スウェーデンのストックホルムでノーベル賞5部門の授賞式が行われる。北海道大学名誉教授の鈴木章氏と、米パデュー大学特別教授の根岸英一氏が、米デラウェア大名誉教授のリチャード・ヘック氏とともに化学賞を受賞。日本人が受賞した年の発表日と授与式の日は、メディアを含む日本人の誰もが「日本の科学の力」を誇れる日となる。
鈴木氏は、受賞が決まった直後の10月8日、報道記者の取材にこんなことを言った。「研究は一番でないといけない。“2位ではどうか”などというのは愚問。このようなことを言う人は科学や技術を全く知らない人だ」【http://sankei.jp.msn.com/science/science/101008/scn1010082354006-n1.htm】。
鈴木氏のこの批判は、もちろん、事業仕分けにおける蓮舫参議委員(当時)の発言に向けられたものだ。昨年11月13日、次世代スーパーコンピューティング技術の推進をめぐる仕分け作業で、理化学研究所の説明者がした「世界一を取ることによって夢を与えることが、実は非常に大きなこのプロジェクトの1つの目的」という発言に、「世界一になる理由は何があるんでしょうか。2位じゃだめなんでしょうか」と応酬。報道では蓮舫氏のこの発言部分だけが切り取られ、今年の流行語大賞の候補にまでなった。
基礎研究、目的の説明しづらく予算削減対象に
事業仕分けの目的の一つにあるのが「国の予算のあり方の刷新」つまり、国の予算の無駄削減だ。科学関連の事業では、海洋研究開発機構の「地球内部ダイナミクス研究」にも「予算の計上は見送り、または予算要求の半額縮減」が、また宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「GXロケット」にも「廃止」が下されるなどした。科学にとって厳しい結果となった。
事業仕分けでの判定は、「2位じゃだめなんでしょうか」発言とも相まって、科学研究者の強い反発を招き、結果として科学的研究のあり方を社会が考えるきっかけも呼び起こした。
とりわけ関心の対象になったのが「基礎研究」だ。一般的に、科学関連の研究は「基礎」と「応用」それに「開発」に分けて考えられることがある。
基礎研究は、未解明の知識や理論などを純粋に得ることを目的とするもの。対して応用研究は、基礎研究で得られた成果をもとに、特定の目的を定めて実用化に結びつけようとするもの。さらに開発研究は、基礎研究や応用研究の成果をもとに、新しい材料や装置、システムや技術などの導入を狙うものとされる。
応用研究や開発研究に対しては、「環境問題の解決にこの部分で寄与する」や「医療分野の発展にこの部分で貢献する」といった具体的な目的を示しやすい。
対して、基礎研究の目的を説明するときは、「人間の知的欲求を満たすため」などと抽象的になりがちだ。効果を明確に説明できないとして、国の予算の削減対象になりやすい。