軽量な航空機では、情報収集に必要な機材、長時間の作戦に必要な燃料、大量の武器・弾薬を搭載できないため、「遼寧」の主な任務は遠隔地へのパワープロジェクションや洋上目標への攻撃ではなく、沿岸部の防空となる。あるいは、フル装備の艦載機を陸上基地から離陸させ、作戦終了後に空母に着艦させることにより、陸上または洋上の目標への攻撃も可能であるが、その場合も作戦行動範囲は中国沿岸部近くにならざるを得ないだろう。
ちなみに、横須賀に配備されているアメリカ海軍の原子力空母「ジョージ・ワシントン」は10万トン級、甲板は水平、蒸気カタパルトで航空機を射出し、搭載航空機は80機程度で、同時に複数の艦載機を離発着できる。カタパルトの力によって、3秒で時速240キロまで速度が上がるため、艦載機は重装備でも発艦が可能。燃料も多く積み込めるので、遠隔地への攻撃も可能だ。
空母への着艦の際に、艦載機は機体から下ろしたフックを飛行甲板上のワイヤーに引っかけて機体を停止させる。ロシアがこの着艦ワイヤーを提供することを拒否したため、中国はスウェーデンからワイヤーを調達したようだ。このワイヤーの耐久性がどれほどのものかは未知数である。耐久性が低ければ、安定した艦載機の運用はできまい。
「始まりの終わり」に過ぎない中国の空母計画
では、艦載機の性能はどうだろうか。中国はロシアのスホイ33を購入するとみられていたが、ロシアとの交渉がうまくいかなかったため、「国産」の殱15(J-15 )を開発している。殱15の機体はスホイ33に酷似しており、性能はスホイ27をベースとした陸上配備の殱11に近いとみられている。作戦行動半径は700キロで、空中給油によりさらに300キロ広がり、射程100キロのPL-12空対空ミサイルを搭載するというのが、大方の見方である。
だが、機体だけでなく、指揮命令・管制・武器システムまで揃えなければ意味はない。中国は殲15の性能が米海軍のF-18に匹敵すると吹聴しているが、殲15には厳しい重量制限が課せられる中、それはあまりにも過大評価であろう。
パイロットの養成も課題である。中国は、ウクライナ海軍航空隊訓練センターで艦載機パイロットの訓練を行ってきた。このセンターは、スキージャンプからの発艦とワイヤーによる着艦及び緊急対応の訓練をするシミュレーターを備えている。現在は、西安などに同様の施設を建設し、パイロットの養成を続けている。また、中国は、1987年から広州海軍アカデミーでパイロットを空母の艦長要員として養成してきた。既に少なくとも9人の海軍パイロットがこの3年課程を修了し、全員が駆逐艦の艦長になったという。「遼寧」の艦長もこの中の一人である可能性が高い。
しかし、このパイロットの養成こそが、中国が空母を運用する上で最大の課題の1つとなろう。