2024年12月4日(水)

安保激変

2012年12月5日

 米海軍の報告によると、米海軍がジェット艦載機の運用を始めた1949年から1988年の間に、12000機の航空機と8500人のパイロットを事故で失った。米海軍がこれだけの数を失ってまでも空母の戦力を高めようとしたのは、冷戦という特殊な国際環境だったからである。現在の米海軍空母の打撃力は、この尊い犠牲の上に成り立っている。公開された映像を見る限り、「遼寧」上での艦載機の訓練は快晴で波も穏やかな日を選んで行われた ようだ。しかし、空母艦載機の運用は昼夜を問わず、どのような気象条件下でも行わなければならない。今後中国が艦載機の運用を本格化させれば、かなりの数の航空機とパイロットを失うことになろう。

 つまり、中国の空母計画はまだ始まりの終わりに過ぎない。「遼寧」はあくまで試験・訓練用の空母なのだ。空母は非常に複雑なシステムで、メンテナンスと訓練を欠かすことができない。通常1隻の空母が作戦を行うことができるのは年間3~5カ月のみであるため、3隻を1組として運用するのが基本である。

 中国はすでに国産の空母建造も始めていて、米軍は中国が2020年までに複数の空母を保有するとみている。原子力空母を開発しているという情報もある。だが、空母の開発と維持・運用には天文学的な費用と多大な時間がかかる。中国の経済成長に陰りが見える中、空母の開発は大きな負担となるだろう。

 さらに、空母はミサイルと潜水艦の脅威に非常に脆弱なので、戦闘艦、潜水艦、補給艦などと打撃グループを構成してこれらの脅威から守る必要がある。だが、中国の対ミサイル・対潜水艦能力は大きく出遅れているため、これも一筋縄ではいかないだろう。

日本は最先端技術の漏洩に注意せよ

 いわば、中国の空母は張り子の虎なのだ。東シナ海や台湾海峡の軍事バランスに影響を及ぼすことはない。南シナ海ではベトナムやフィリピンにとってある程度の脅威となるだろうが、東南アジア諸国も潜水艦戦力を増強して中国の空母に対抗しようとしている。中国の空母を過小評価してはいけないが、決して過大評価もすべきでない。

 日本としては、今後冷静に中国の国産空母の開発状況を分析しつつ、中国に技術が流入しないように万全の注意を払うことが肝心だ。とりわけ、中国が電磁式カタパルトの開発を行っているとの情報がある。これは米軍が次世代の空母に搭載するために開発しているもので、リニアモーターを利用したものだ。中国が一時JR東海の超電導リニアに異常な関心を示したのはこのためだろう。このような最先端技術の漏洩を官民一体となって防ぐ必要がある。

  
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