AEIのブルメンソールとシュミットが、ロサンジェルス・タイムス紙1月27日付掲載の論説で、中国を「責任あるステークホルダー」とする関与政策は成果を挙げなかった、と論じています。
すなわち、オバマ政権は、アジア太平洋への「回帰」ないし「リバランス」を重点政策としているが、そのような政策が必要になったのは、中国の台頭に対する懸念が高まっただけで無く、これまでの中国に対する関与政策が成果を挙げていないためである。
2005年に、当時のゼーリック国務副長官が、中国に対し、国際社会の「責任あるステークホルダー(利害関係者)」になることを呼びかけた演説を精査してみると、この演説でゼーリックは、中国への関与政策が成功したと言えるためのベンチマークを提示している。
ゼーリックは、先ず、中国はオープンなルールに基づく国際経済システムから利益を受けながら、「重商主義的経済政策」を取っており、国際経済システムの基本原則へのコミットメントが疑わしいとしている。この点は、今も変わらず、事態はむしろ悪化している。通貨安政策、市場アクセス制限、天然資源の排他的利用、知的財産権侵害、サイバースパイ活動、国有銀行の金融支配、政府主導の産業政策などである。
ゼーリックは、次に、中国の軍事力増強についての透明性の欠如が改善することを期待している。この点についても、米国の度重なる働きかけにも拘らず、軍対軍の交流は殆ど実質が無く、米国の情報部門は、新兵器が突然出現するのに驚かされ続けている。冷戦の真っ只中でも、ホワイトハウスとクレムリンを繋ぐ直通のホットラインがあり、ソ連の戦略兵器とミサイルの数は知っていた。中国については手掛かりすらない。
ゼーリックは、中国は、責任あるステークホルダーとして、北朝鮮問題や核不拡散問題全般に取り組むべきだと述べている。しかし、北朝鮮は核兵器の保有を続け、ミサイル開発も進み、同盟国だけでなく米国自体をも脅かしかねない状況である。中国が核拡散に直接関与することは減ったが、北朝鮮に十分な圧力を加えることは無く、イランの核問題についても協力を渋っている。ゼーリックは、「イランの核問題についての中国の行動が不拡散についての中国のコミットメントの真剣度を示すことになる」としていた。
最後に、ゼーリックは、「台湾についての中国の選択が重要なメッセージとなり、中国が台湾との対立を平和的に解決することが重要である。」と述べている。しかし、台湾に最も対中融和的な政権が誕生したにも拘らず、中国は対岸での軍事力増強を続けており、また、日本と東シナ海で、ベトナム、フィリピンと南シナ海で対立するなど、近隣諸国への攻撃的姿勢を強めている。
以上の評価が、二期目のオバマ政権の政策にどのような意味を持つのであろうか。第一に言えることは、オバマ政権のアジア太平洋地域での戦略強化の正当性を高める根拠になることである。国防費の大幅削減の時代に、新たな安全保障チームが具体的にいかなる手段でこのような戦略を実現するのか、問われなければならない。