「借金を増やさない」とは、新たに借金が膨らむような高価な資産の購入を控えることです。いまの時代、絶対に、マンションや車を買ってはなりません。
よく「一人ひとりが消費を減らすと、全体の景気がより悪くなるから、どんどん消費したほうが経済のためだ」という専門家がいます。理論としては間違っていないのでしょうが、私は、マクロ経済のことは放っておいてでも、自分の身を守るべきだと思います。経済理論より餓死しないことのほうがよっぽど大事です。少なくともこれから数年の間は、経済がどれだけ悪くなろうとも自分の家族の生活は守る、そういう意識を持つべきでしょう。
「投機をしない」とは、「元本保証ではない運用をしない」ということです。「投資をしない」と言い換えてもいいくらいです。投資信託は絶対にやめたほうがいい。銀行預金、それも決済性預金をオススメします。2005年4月にペイオフ解禁になってから、預金は1000万円までしか保護されませんが、決済性預金は無利息の代わりに全額保護されます。
信越化学工業で経理・財務マンとして働いていたとき、私は小田切新太郎会長・社長の教えに従って、投機はおろか、儲けるための有価証券投資や、実需のない為替予約は一切やりませんでした。この伝統はいまも脈々と続いているようです。この考え方は家計にこそ必要だと思います。私は実際、決済性預金に全て預けています。
株式への投資はどうでしょうか。私なら「株はかすかにいい」とお答えします。株式も投資信託と同じで元本保証ではないのですが、中身のわからない投資信託と違って、株式なら自分でよく勉強した上で企業を選ぶことができます。この「勉強」はとても大切ですから、「年間30万円」というように上限を決めて、すべてパーになることを前提に、証券会社の勧めには一切乗らず、自分の頭で買うということなら、株式投資はやってもいいでしょう。
会社を辞めちゃいけない
私は、このコラムの第1回で、「たとえ上司とソリが合わなくなっても、上司には徹底的にペコペコして自分をかわいがるべきである」という“ペコペコ哲学”をお話ししました。
最近の新聞で雇用の問題が話題に上がらない日はありません。このような時代に、「上司とソリが合わない」「仕事が面白くない」、それだけの理由で会社を辞めてはなりません。自分と家族のために、自分の雇用は絶対に守り抜くべきです。
独身の人は、親にパラサイトするという手段があるかもしれません。カップルで子どもがいなければ、どちらかが働いていればいいと思うかもしれません。だから辞めてもいいや、と考えてしまう前に、「もし自分が家族の大黒柱で、家族、子どもを育てなければいけないとしたらどうか」と想像してほしいと思います。
社長をはじめ上司にひどいことを言われて辞めたくなることもあるでしょう。ですが、上司の言った言葉が、ピストルの弾丸のようになって自分を撃ち抜くわけではありません。命を奪われるわけではないことなら、何も恐れる必要などないのです。
たとえどんな辛いことがあったとしても、今の仕事にはしがみつく。ですが、いつ解雇されるかわからない時代です。いざ解雇された場合に、次の仕事を見つけるまでの間、1年半くらいは生活できるだけの預金をためるよう、普段から努力すべきでしょう。
私の人生に決定的な影響を与えたのは、6歳から9歳までの戦争疎開の経験です。東京で暮らしていた私の家族は、終戦間際、戦災を恐れて長野県に疎開しました。本当に食べるものがない日々が続きました。あのときの経験があったからこそ、私は、その後のサラリーマン人生で、仕事があることのありがたさ、食べるものがあることのありがたさを感じ続けることができました。
つつましく生きることは決してつまらないことでもないし、不幸せなことでもありません。みなさんには、この不況の時代を逆にバネにして、仕事のありがたさを感じながら、日々を一生懸命に生き抜いてほしいと思います。