本年4月4日の金融政策決定会合で、日本銀行がマネタリーベースを2年間で2倍にするという大胆な金融政策を打ち出した。この政策と、以前からの大胆な金融緩和への期待で、円が下落し、株価が上昇し、景気回復の期待が表れている。
大胆な金融緩和政策は現在のところ、国民に評価されていると言ってよいだろう。私の知り合いは、リフレ派の議論には反対だったが、このところの円安のおかげでFX(外国為替証拠金取引)で儲けたので今では大賛成だと言っている。もちろん、うまく波に乗った人だけでなく、輸出の増加、生産と雇用の拡大で、いずれすべての国民が恩恵を感じることができるだろうと私は思っている。
しかし、緩和の行き過ぎが問題を起こすという議論もある。その問題とは、景気が拡大し、物価が上がれば、金利も上昇することだ。金利が上昇すれば、国債価格は下落する。すると、これまで国債を購入していた金融機関が損をする。中には、バランスシートが傷む銀行も現れて、経済に混乱を起こすというのである。だが、景気が回復すれば金利が上がり、金利が上がれば債券価格が下落するのはほとんど公理である。金融機関はプロなのだから公理を無視していては困る。それに、多くの人々が今まで金利が安すぎると文句を言っていたのだから、金利が上がるのは良いことではないか。
パリの小金持は、株と債券の両方を持っている
『屋根裏部屋のマリアたち』(2012年日本公開)というフランス映画があった。1960年代初、フランコ軍事政権の下で経済発展の遅れていたスペインの女性たちがフランスにメイドとして大量に来ていた。そんなスペインの女性に、雇い主のブルジョワのフランス人男性が、地位や財産では得られない幸せを見出すという話である。
ここで主人公の男性は、パリの小金持相手の小さな証券会社の経営者である。彼は、顧客に、「株価と債券価格は逆に動く。だから両方を持ちながら、自分の財産を安定的に増やしていくことが重要だ。短期の儲けを狙う人は私の会社の顧客にはしない」と語る。
アベノミクスで金融を緩和したら、円が下がり、株が上がった。さらには長期金利が下がり、債券も上がった。しかし、景気が良くなればいずれ金利も上がる。金利が上がれば債券価格は下がる。パリの小金持のように、両方持っていれば何も困らないが、債券ばかりを持っていれば困るだろう。しかし、プロである金融機関が、債券ばかりを持っているから困るとはどういうことなのだろうか。