FT紙コラムニストのマーティン・ウォルフが、6月11日付同紙で、イギリスが第二次大戦後インフレにより財政赤字を削減した例を引用しながら、継続的な力強い成長によって、インフレの悪影響を封じ込めつつ財政健全化を図ることを提案しています。
すなわち、何がインフレを引き起こすか。答えは、次の二つである。一つ目は、中央銀行は「量的緩和」によって「お金の増刷」を行い、それが広義流動性の爆発的な増加を招く。二つ目は、予想される公的債務額から、究極的に政府がインフレにより債務を履行しない事を促す。
公的債務が増加し、比較的インフレ率が高いイギリスでは、これは大きな問題である。
長期の見通しがどうであれ、目先2年くらいの見通しは正反対である。消費者物価指数もコアインフレ率も比較的低く、賃金上昇率は生産性の低下にも関らずゼロ付近にあり、単位労働コストは年率2パーセント以下の上昇である。為替相場も商品市況も安定しており、IMFは今後数年、これらが下がると予想している。総合すれば短期のインフレ圧力は非常に弱い。イギリスにおいて言えることは、アメリカやユーロ圏においても、より当てはまることである。
今後5年間は、需要と供給能力の活用が重要となる。イギリスのGDPは金融危機前のトレンドから16%も低くなっており、公式推計では過剰な供給能力が指摘されており、IMFのアウトプット・ギャップは供給能力が実際の供給より4%多いとの結果が出ている。しかし、失業率は約8%であり、想像する程は大きくない。又、中央銀行はバランスシートを膨らませているが、これは市中銀行の融資意欲の減退を埋め合わせておらず、結果として信用創造と広義流動性は減少している。そして極めつけは、財政が超緊縮であることだ。
インフレが起こり得るというもっと説得力のある議論としては、それは今日の政策の結果としてではなく、為政者が迫りくる公的債務に対応する最も簡単な方法であるという点だ。インフレによる負債の債務不履行によって、債権者と債務者、そしておそらく世代間の分配における対立は解決されるだろう。このようなインフレによる富の再配分についての前例は直ぐに思いつくだろう。
実際、イギリスは多額の公的債務を抑え込んだ興味深い歴史を持つ。第二次大戦後、イギリスの公的債務はネットでGDPの200%を超えていた。これが1970年台前半には50%迄下がっている。どのようにしたかというと、公的債務は1948-1949年と1970-1971年の間、名目金額では29%増加したが、GDPは336%増加した。実質GDPが91%増加した事と、物価が128%上昇した。即ち年率では名目GDPは6.9%、実質GDPは3%、そしてインフレ率は3.8%上昇したのだ。