2024年12月22日(日)

有機農家対談 「ぼくたちの農業」

2013年7月31日

 ふたりの農家が語る「農」には、私たちが陥りがちな二項対立を軽々と超えた、もっと多様で、そしてもっと楽しい世界が拓けている。

「有機か慣行か」の土俵にはのらない

久松:極めてシンプルに、「消費者を教育する必要はない」と考えているんですよ。マーケットをどこに設定するか、というだけの話なんです。

「有機を売りにしているつもりはない」と言う久松さん。

 もし「有機」をコミュニケーションツールとして使うのならば、不特定多数を相手にしなくてはいけない。不特定多数の消費者にわかってもらおうとする限りは、「オレ流の有機」はありえないんです。すべてを相手にする限りは「慣行 vs 有機」の土俵に乗るしかなくなってしまう。

 ぼくは有機を売りにしているつもりはありません。たとえば飲食店の人が畑を見に来ても、有機農業であることを説明し忘れることがあります。そもそも訊ねられることもあまりない。そういう文脈で売っていないんですよね。

 だからもし「お前のやっている有機は制度として認められたものではない」などと言われたら、ぼくはいつでも有機農業の看板を取り下げます。

 「農薬を使わないから安全です」を売り文句にする農家を否定はしないけど、それはトヨタのセールスマンが工場にある溶接の機械を自慢しているみたいに映ります。車の自慢になっていないじゃん、と。

有機農家に抱いていた思いを語る小川さん。

小川:まったく同意見です。ぼくはこれまで有機農家の方に会う時に心理的な一線があったんですよ。何年か前にはじめて久松さんにお会いするときも「〈有機〉で売っている人じゃないか」という先入観があって、会うまでは気が重かった。「有機だから美味しい」「有機だから安全だ」はやっぱり違いますから。

 でも久松さんやほかの有機農家と話してみて、有機農家にもいろいろな人たちがいることがわかったんです。

久松:僕は『奇跡のリンゴ』みたいなファンタジーから有機農業の世界に入ったんですよ。「これが世界を変えるんだ」「農薬は悪だ」と思っていた。でもやっていくうちに、まず技術的にそれは違うとわかる。ファンタジー有機の理屈とは相容れないことがたくさん起きる。それに、すごくマズい野菜を作っている有機農家もいた。


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