もうひとつわかったのは、単純にマーケットが小さいことです。このタイプの農業は、参入者が増えるとあっという間にパイの食い合いになってしまう。これでは無理だと方針を変えてきたんですね。
とはいえ、思想的な有機農家は、重鎮も含めていい人たちばかりなんです。情報をオープンにシェアしあうし、居心地はすごくいい世界です。
でも同じ農家である小川さんにも壁を感じさせるくらい、いつの間にか世間的にはイロモノになってしまっている。そのことに気づいたときはびっくりしました。
かといって「有機農業は非科学的だ」と批判したり、ダメな例だけを取り上げて攻撃している人たちに乗っかろうとも思いません。「『奇跡のリンゴ』は科学的にはどうなんだ?」という議論に乗っかってしまった時点で負けだと思っています。それは無視しないといけない。あるいは、違う種類の「奇跡」を起こさないといけない。「農家と消費者のディスコミュニケーションをどうすべきか」という話にはまったく興味がないんです。「オレの野菜」が売れればいいんですよ、一農園経営者としてはね。
小川さんは誰も知らないようなヘンな野菜をたくさん作っているでしょ? そんなド変態の農家(笑)がもっと売れるようになればいいだけの話なんですよ。そういう方向のほうがずっとポジティブだと思う。だから小川さんは、ハウスに放置されているナスやトマトの苗を、時間を作ってとっとと定植してください(笑)。
小川:「有機・無農薬だから安全」は誤解だし、その「安全」って、人が食べて安全かどうかだけのことですよね。でも環境に対しての「安全」や、畑にいるさまざまな生き物を殺さないという意味の「安全」もあるわけで、いろいろな農業のやりかたがもっとあるんじゃないかなとも思いますね。地場にいるハチやテントウムシを活用したり、アブラムシをあえてソラマメにたからせてほかの野菜につかないようにしているのも、そういう考えでやっています。
久松:どうせ安全を考えるなら、そのレベルで考えたいですよね。自然や生物多様性の保護には段階があって、手つかずの自然を絶対の「善」として考えるのか、人間にサービスを提供するものとしての「自然」を守ろうとするのか。酸素の供給、水の浄化、景観による癒し、そんなサービスを人間に提供してくれるものを壊したくはない、という意味での保護もありうる。